イナリの思い
「たっだいまー!」
陽気におっさんの家の扉を開け、帰還を告げる。
いやー、再不斬と白と話し合った後急いで帰ったからドロドロで…おかげでサクラに怒られちゃった!テヘペロ☆
どうやら見事サスケも課題をクリアしたようだ。
今日は自分一人で頑張りなって丸投げしちゃったからな
断じて指導を放棄したわけじゃないぞ!自分一人で鍛錬をするというな…
言い訳を頭の中でしていればカカシ先生からおっさんの警護につけとの指令が。そろそろ再不斬も動き出すからだそうだ
夕食の用意はすでに出来ていたので席に着く。
「ふー、ワシも今日は橋作りでドロドロのバテバテじゃ。なんせもう少しで橋も完成じゃからな」
それはそれは、朗報である。うん、頑張った甲斐があるというものだ。
それにしてもツナミさんのご飯は美味しい。ご飯が進むのなんの。
最近は人が作ってくれたご飯なんて食べる機会がなかったからなあ。あ、一楽は別だぜ?
その時、俯いていたイナリの異変に気付いた。涙を流していたのだ。
今まで幸せそうに箸を進めていたのに、急にそれを止めたことに気付いたサスケも動きを止める。
がたり、とイナリは立ち上がり涙でぐちゃぐちゃの顔でオレを睨みつける。
「何でそんなになるまで頑張るんだよ!修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ!!いくらカッコイイこと言って努力したって、本当に強い奴の前じゃ弱い奴はやられちゃうんだあッ!!!」
イナリが叫びだしたことにリビングは静まるが、イナリは気に留めず声を荒げる。
「お前見てるとムカつくんだ!この国のこと何も知らないくせに出しゃばりやがって!!
お前にボクの何が分かるんだ!つらいことなんか何も知らないでいつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよぉっ!!!」
つらいことなど何も知らない
その言葉に反応したナルセはすうっと自分の眼が冷たくなるのを感じた。ナルセの顔は無表情だった。
第七班は身の毛がよだつ思いをした。ナルセを怒らせたと。
「いいか、よく聞けクソガキ。オレはな、ガキに対しても優しい説教はしてやらないからな」
イナリはその感情のこもっていない声色に体をびくりと震わせた。ガキという発言にも言葉を返せず、次の言葉を待った。
「一つ一つ教えてやろう
オレはな、本来この仕事を受け持たなくてもよかったんだ。おまえらを見捨てて里に帰ることなんざ容易いんだよ。これはオレらの善意だし、依頼人はタズナさんだ。お前が口出ししていいことじゃないんだよ
オレがお前について知っていること?あるわけねえだろ。お前みたいなぎゃーぎゃー騒ぐだけのガキ、知りたいとも思わないね。逆にお前はオレの何を知ってやがる」
冷たい目がイナリを貫く。
ナルセについて知っていること…
「ここにいる人間全員がな、今までつらい思いをしてきたんだよ
カカシ先生は戦争で友を亡くした」
カカシはナルセの口から出た己の過去について目を見開く。
「サクラは虐めを受けてきた」
サクラは過去を思い出し、俯く。
「サスケは一族を殺された」
サスケはあの晩を思い、顔を背ける。
「オレは里の全員から迫害された」
突き刺さるようなあの視線。振るわれる暴力。胸に痛む言葉。
「つらい思いをしてきていない人間なんざいねェんだよ
お前は何もしなかっただけなんだよ、クソガキ。お前がしているのは故人の思いに対する侮辱だ。カイザという人の理念を受け継ごうとしないことがな。受け入れることを怖がってる…弱虫が」
イナリは俯いてしまった。歯を食いしばり、泣き声を堪えて。重い沈黙が部屋を支配する。
「ちょっとナルセ!言い過ぎよ!」
立ち直ったサクラがオレに怒鳴る。が、オレは何も言わない。むしろまだまだ言ってやりたい気分だ。
「おっさんもこれぐらい説教をするべきだったな。『無知は罪』とはよく言ったもんだ。教育は親の役目だぞ。何も知らない子供が可哀そうだ」
ご馳走様と一人呟き、部屋を後にした。
説教
(誰かの気持ちを完璧に理解するなど不可能だ)
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