尾行
「こんなところで寝ていると風邪ひきますよ」
心地よい声の主に体を揺さぶられ、意識が浮上する。
まだ辺りは薄暗い。鳥たちの鳴き声が聞こえている。良い目覚めだな。
結局思い出話を聞いて一週間近くが経過した今日この頃。なんだか家に居づらくて野宿をした。
「…誰?」
「通りすがりの者です」
まだいまいち意識がはっきりとしない。
眼を擦り、欠伸を一つして恩人に向き直る。美人さんはにこりと微笑んだ。
「わざわざどうもありがとうございます」
「どういたしまして」
話を聞けばどうやらこの美人さんは薬草を集めている最中らしい。折角なので、恩返しと称してオレも手伝うことにした。
薬草はオレの守備範囲だぜ、グヘヘ。
「オレの名はうずまきナルセ。あんたの名前は?」
「…白といいます」
美人さんは少々躊躇った後、名を名乗った。
白かあ、いい名前だな。美人さんにぴったりだ。
薬草を集めている最中、他愛のない話をした。今仕事で波の国に来ているんだ。それで修行をしているんだ、って。
「へえ、修行ですか。すごいですね…なんで修行をしていたんですか?」
「うーん…成り行き?オレには力が足りないから。その力を手に入れるために」
苦笑いをしながら返せば、白は真剣な表情で見つめ返してきた。ぐっと力のこもった目で見られる。
「それは誰かの為ですか?それとも自分の為ですか?」
「…ん?」
「君には、大切な人が居ますか?」
大切な人?
頭に思い描くのは父さんや母さん。九喇嘛。サソリやイタチにデイダラ。長門兄さんに小南姉さん。サスケ、サクラ、ヒナタ。三代目のじーさん、イルカ先生…
自分に大切だと思わせる人も増えたものだ。
それでも、真っ先に思い浮かぶのは…彼女の姿。
白は身を乗り出して続ける。
「人は、大切な何かを守りたいと思った時に…本当に強くなれるものなんです」
一言一言噛みしめるように言った。それが、白の信条。
「一つ聞いていいかな?一番大切なものが傍にないとき、どうすればいいんだろうか」
「それは…っ」
「それでも、守りたいと、愛していると思い、奮励するオレは愚かだろうか」
虚ろ気で、儚げな目を白に向ける。
白はそんなことを聞かれるとは思っていなかったのであろう、若干躊躇いが見れる。
「…君はボクが思っているよりも、ずっと強い人だったんですね」
それではボクはもう行きますと白は立ち上がった。ばいばいと手を振り、その背を見送る。
その姿が見えるか、見えないかの位置に立ったとき眼孔を鋭くさせ、気取られないように跳躍をした。
*****
白が帰ってきたのは隠れ家。ここで桃地再不斬は療養している。
「遅くなってすみません、再不斬さん」
中は思ったよりも広く、中央には再不斬が寝ているベッドが。白は背負っていた籠を降ろし、傍にある椅子に腰かける。
「なかなか広いもんだね」
突然した第三者の声に白はばっと構える。
「君は…っ!」
そこには先ほどまで会話をしていた一人の子供の姿が。
なぜ今まで気付かなかった。僕はあの時別れてからずっとつけられていたんだど。
「別に今日は殺し合いに来たわけじゃあないから、そんなに構えないでよ」
部屋に充満する殺気をものともせず、ナルセは入り口に仁王立ちしていた。
足元にいる狐と共に部屋に入り込み、椅子を手繰ってどかりと座り込む。狐が膝に座り込めば、腕を組み再不斬を見下ろす。
「体はどんな感じ?もう順調かな?」
「てめェ…何しにきやがった」
再不斬は鋭くナルセを睨む。ナルセは怖い怖いと腕を擦るだけで怯えもしない。
「話をしに来ただけなんだってば」
「何のだ」
「ん〜…ビジネス?」
唇に人差し指を当てて言う。断言はしない。これが最も表現しやすい言葉だっただけだ。
「オレはカカシ先生以上に未来が見える
…お前たちはガトーに見限られる」
白はまさかといった目でナルセを見る。だが、ナルセの眼は真剣そのもので、嘘を吐いているようには見えない。
本当だ、と思った。
確証はないが、この子供が言うことは現実になるのだと思った。
「それを教えて何になる」
再不斬の低い声が部屋に響く。それを聞いてナルセはうっすらと笑う。
「そこでビジネスの話だ。オレ達木ノ葉はあんたらを木ノ葉の暗部に勧誘したい」
悪い話じゃないだろう?
ナルセは意地悪そうに笑う。
「今の世は忍不足だ。木ノ葉もその例に洩れない。さらに言えば暗部はもっと手が足りない。
あんたらの技量は素晴らしいものだ。
無音殺人術の達人、桃地再不斬
人体に通じ、血継限界の持ち主である白
オレ達は人手が、あんたらは生活する場所が欲しい。利害は一致している。悪い話じゃないだろ?」
「ガキのする話じゃねえだろ」
「いろいろと訳ありでね。火影から何かと厄介事を頼まれているんだ。暗部の話、考えておいてほしい」
ナルセは奇妙な沈黙をその場に残し、狐と共に去って行った。
のち勧誘
(悪く言えばストーカーだよね)
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