彼は祭りの主役
ナルセくんは私のかけがえのない友達。
とっても大切でとっても好き。
私がナルセくんを好きな理由はわかってる。ナルセくんはとても優しくて、強くて。だから。きっとこの思いは恋慕じゃなくて憧れなんだね。
だからかな。時に見せる諦めの表情を見るたびに胸がちくりとした。今もそう。何かしたいけど、私に何ができるんだろう。
「皆揃ってどうしたんだってば?」
ナルセくんは笑っていた。けれど泣いていた。だから私も泣きそうになった。
皆で励まして、お祭りに行くことになって。でもやっぱりナルセくんは楽しくなさそうで。
周りの人からの刺すような目線は、本人には嫌でもわかでちゃうんだろう。そしてナルセくんは優しいから、きっとつまらなくさせて申し訳ないぐらいは考えてそうだ。それぐらいは私だってわかる。
今日の主役が浮かない顔をしているのは嫌だ。いつも物事をはっきりと出来ないけど、これだけは意地でもはっきりとさせる。
いのちゃんの提案だった。「浴衣を着よう」折角のお祭りなんだからね、って。その…ナルセくんが着たのは女の子用のものだったけど…
「ほら、とっとと観念なさい!」
「いやいやいや!着るから!自分で着れるから!」
最初は渋ってたナルセくんだけど、皆で詰め寄るとそれは困るのか嫌々着ることになったらしい。……ごめんね?その、私も見てみたいかもなんて…ううん!思ってなかった!でも想像以上にその姿が自然体すぎて。驚いた。その言葉通りだった。
そこからは楽しくて、色んなお店を回った。ナルセくんは甘いものが好きだからいちごあめを買って幸せそうに舐めていた。
ナルセくんが笑うと、私も嬉しくなって笑顔になる。とても楽しくて、毎日がきらきらしてる。このきらきらした毎日が私は好き。
「ヒナタ、どうかした?」
あまりにじっと見過ぎてたみたい。しどろもどろとなって、なぜだかわからないけど飴を分けてもらうことになった。間接キス、とかじゃなくてなんて言うんだろう。友達同士が分けっこする、みたいな。
そこからも色々あった。砂の人と何か話していたり、ナルセくんが実は四代目の子供だってわかったり。
驚いたりもしたけど変わることは何もなかった。だってナルセくんはナルセくんだから。
日が暮れると花火が上がった。眩しい花火は色鮮やかで綺麗だった。ほぅと見惚れる。そしてそれをじっと見つめるナルセくんの目は揺れていた。
「花火、好きなの?」
「ん?うーん…普通、かな?」
じゃあどうしてそんなにじっと見つめてるの?って訊こうとしたら尋ねる前にナルセくんはクスリ笑って口を開いた。
「花火はさ、昔一緒に見てた子を思い出すから、嫌いじゃない」
笑ってたけど、なんて言うんだろう。悲しさが見えた。さっきの、笑ってるけど泣いてるみたいだった。
あなたが何かを抱えているのは知っている。あなたがどんなことを抱えているのかは知らない。
でも聞き出そうとは思わないよ。いつか話してくれるのを待ってる。それまであなたのことをずっと好きでいて、待ってるから。ね?
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