星の瞬き | ナノ

  小さな支え


木の葉に乱反射する日の光を浴びながら森の中を散策する。

することがなくて時たま散歩をしてるといつの間にか散歩が趣味になっていた。森林浴は清々しい気分になれるから趣味にしてて損はないと思っている。え?その上をいく趣味はもちろん妄そ…ゲフン!だけどね!

森は好きだ。空気は澄んでいるし、不快な音もしない。人里から離れたこの森は滅多なことがない限り人間は踏み荒らさない。人嫌いなオレと九喇嘛にはぴったり


「遊びに来たぞ」


…なはずだったんだけどなぁ。

目の前に並ぶ端正な顔が二つ。赤い団扇の家紋を背中に堂々と掲げる彼らは年の離れた二人兄弟。にこやかに微笑む兄と、その兄に隠れるように仏頂面を向ける弟。とてもよく似ていて、似ていない兄弟だ。


じり。半歩後退する。野生の珍獣と出会った時のように、少しの間睨み合いが続く。み゛ゃ、と猫が跳ねるように駆け出し「まあ待て」

…オレの歩幅よりイタチの腕の方が長いので、いつもこうやって容易く捕獲される。がしりと肩を掴まれたまま一歩も動けない。


「なんでいつも逃げるんだ」

「追われたら逃げたくなるだろうが。お前らこそなんでいつも追うんだってば」

「逃げられたら追いたくなるだろ」


それは正論だな、とサスケの言葉にイタチが相槌を打った。いや、そんなはずはない…だろ。


そのままイタチはオレの体をひょいと抱き上げて、オレの家がある方へと歩いていく。こういう時はいつも子供の姿が憎たらしくなる。対抗する手段がオレにはないんだから。

軽々しく抱えられることに抵抗を覚えながらも、首に手を回して溜め息をついた。


「うちはのぼんぼんと化け狐が仲良くしてるなんて知られたらどうなることやら」

「そうなったら子供だからわからないと言えばいいんだ」

「んな言い訳通用すっかよ。それより降ろせってば。自分で歩くから。さっきからサスケの嫉妬の目が痛いんだよ」

「なっ!?」


ぼっと一瞬でサスケの顔はゆでだこになった。あーあ、これだからブラコンは


*****


家に到着したのはちょうど昼頃であったから、ついでに飯を振る舞うことになった。家庭菜園で自家栽培した野菜をふんだんに使う。

人参に玉葱、そして茄子にピーマン。あとは豚肉。そう、カレーだ。


「またカレーか…」


鍋の中を覗き込んだサスケがぼそりと言った。カレーは日持ちするし、量もある。それになにより


「だってまだカレーしか作れないんだもん」

「もんとか気持ち悪い」


止めろよ…そんなこと言うなよ、泣きたくなるだろ…


「そうだイタチ、玄関に置いたままの野菜があるんだってば。取ってきてよ」

「ああ、わかった」


イタチは物分かりがいいな。ジト目でサスケを睨むとぷいとそっぽを向かれた。これだからサスケはよ…


さて、一方のイタチであるが。リビングと玄関はすぐ傍にある。目的の物をさっと持ち上げ、二人が待っているリビングへと戻ろうとした時だった。不意に廊下の奥に潜む闇に目が行った。

一つだけ異質な扉がそこにはあった。まるで意図的にその扉を暗闇の中に作ったような。良心がこの扉を開くなと咎めるがしかし、研ぎ澄まされた感覚が彼に何かを伝えていた。


どれくらいの時間が経っただろうか。どうしてもそこを離れることができずゆっくりと、そのドアノブに手を伸ばした。


「その部屋はダメ」


した声にピタ、と動きを止めた。振り返るとそこにはいつの間にかナルセがいた。暗い、光が通りにくい廊下で瞳の青い光が揺らめいた。


「友達にだって見られたくないものがあるのさ」


ナルセは黙ってそっと扉に手を添え、拒絶の意を表した。無礼にもほどがあったとイタチが眉を下げると、空気を変えるようにナルセはカラッと笑った。


「いやいや大量のエロ本があるかもしんねーだろ!」

「…酷い冗談だな」

「本当かもしれねぇぜ?」


早く飯を食おうぜと二人でサスケの待っているリビングへと戻った。昼飯のご飯としてのカレーも出来上がったし頂くとしようと小さな机に三人で座る。

出来上がったカレーにはたくさんの野菜で埋もれていて栄養いっぱいだと自信がある。しかしこの兄弟は好きなキャベツを、トマトを進んで食べている。野菜は栄養があるが、それでは偏るんじゃないか。


「あはははは!好き嫌いしてやんのー!」


弟も好き嫌いが激しいやつだった。自分達はすごく仲が良い兄弟、というわけではなかったけどそれなりに世話を焼いていた気がする。

笑みを浮かべながらスプーンでじゃがいもを潰した。


「オレもイタチみたいな兄やサスケみたいな弟がいたらなぁ。何でもしちゃうかも」

「オレの方が誕生日は早いんだからな!」

「ハッ、ガキが喚いてるようにしか見えねぇってば」


そうやってすぐにムキになる。子供っぽいね、と馬鹿にしたらさらに顔が赤くなった。

困ったように笑う兄と、ぶつくさと文句を並べる弟。この二人と出会わなければオレの未来はどう変わっていただろうか。


「最初は嫌だったけど、二人に会えて良かったよ」

「突然何言ってるんだ。気持ち悪いぞ」

「勇気を出して感謝を告げたんですぅ。それを気持ち悪いとか言わないでくださーい」


仕返しのごとく悪態をつくサスケにべっと舌を突き出した。口を尖らせて文句を言ったが、呆れたようにしてまた笑顔を作った。


「二人はオレを救ってくれたから、オレも二人を守ってあげる。オレがあげられるものは全部あげる」


嬉しいことも、居場所も、幸せも、愛も。全てを。


「無理すんなよ?」


何も言わずにただ笑ってイタチの頭を撫でた。彼はそれに対し、照れくさそうにしながらもへにゃりと笑う。本当に幸せだった。

そして、イタチが里抜けしたのはその数週間後のことだった。



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