赤の記憶
それは赤い記憶だった。
「き、キャァアアァッ!誰かっ、誰か救急車を!!」
「消防車も必要だ!電話、電話をかけろ!」
ただ赤だけが視界を埋め尽くしていた。いや、もう視界がぼやけているから色でしか景色を判別できないだけなのだが。それだけにしても赤しかなかった。
周りで何かが焼ける音がする。悲鳴もする。ただそれ以上に自分の鼓動がうるさかった。音は段々と小さくなっていった。
手に感じる生温い液体の感覚。ありえない方向に曲がった足。その感触が気持ち悪かったが、痛みはなかった。もう痛みさえも感じることができなくなっていた。
軋む体を無理に動かして手探りでカバンを探した。届いて欲しかった。あれだけは手にしていたかった。
やっと見つけたそれを握り締め、力無く笑う。大事な絆の証。あの子と私の写真。
本当にごめんなさい。許して欲しい。何回、何十回、何百回でも謝るからもう一度その笑顔を見せて。
「会ぃた、い……、あな…」
事故に遭ったのがあなたでなくて良かった。これからもあなたは笑って生きていられる。
でも本当のことを言うと、死にたくはなかった。生に執着はしていなかったが、あの子と別れるなんて考えたことがなかった。
幸せだったんだ、確かに。あの時私は本当に笑っていられたんだ。あの子といれれば、ただそれだけで。
この時間、この場所で、誰かが赤に塗れる確率も、その誰かが私である確率も低いというのに。それとも私だったからなのか。
否。理由なんてどうでもいい。奪われたという事実こそが私の憎悪を駆り立てる。だからこそ、あいつのことは許さない。
どうして私だった
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