二兎追うものは一兎も得ず
大蛇丸のアジトは基本薄暗く、暗い廊下には蝋燭が何本かあるだけだ。それを頼りに歩くのは少々頼りない。あー、やだやだ湿っぽい。カビ臭い。ちゃんと掃除してんのか、ここ。
「よォ、このオレがわざわざ出向いてやったんだぜ。お届け物までつけて」
アジトの入口で出迎えたカブトと、大蛇丸と思わしき包帯男に向けて嫌味をたっぷりスパイスにして言ってやる。カブトは忌々しそうに眉を寄せていたが、大蛇丸は目を細めて愉快そうに笑った。
「いくら君が大蛇丸様の次なる器だとしても、君のその態度を見て恨まない人が出てこないとは限らない。もう少し思慮深い行動を取った方が」
「は?何言ってんの?」
オレの返答にカブトは面食らった。そういう表情をしたいのはオレの方なんだがな。
「これはオレの器だ。易々と渡すわけねェだろうが」
オレがそう言うと再不斬、白、ハヤテくんがオレの前に立ち塞がった。
いらない警戒はよせ、と伝えると一目くれて音の四人衆をその場に投げ捨てた。あらら、痛そうな。白が素早い動きで仮死状態にしていた千本を抜く。
さて、油断はできない。包帯まみれの大蛇丸に向き直す。わざわざ時間稼ぎをしたのだが、その必要はなくオレは間に合わなかったと。ざまぁねえの。
「あんたは可哀想な人だな」
オレの体を手に入れたとしても大蛇丸が本当に欲しているものが手に入るわけないのに。蝋燭の明かりで浮いた顔が不気味感を増させた。
「あなたに私の本心がわかるって言うの?」
「ああ、わかっちまうね。嫌になるほど。もがいてもがいて、どんなにもがいても今のままならそれは手にすることができないこともね」
両者の双眸がぶつかり合い、緊張が走る。
「どんなにもがいても結局人間の形成の起因はそこに行き着いちゃうんだな」
「もっともらしく言ってくれて」
「だって事実だ」
不快そうな顔をしている大蛇丸の顔を見て、クツクツと喉を鳴らして笑った。
*****
「腕を一時的に返してやる。決闘をしよう」
そうオレから提案を出して闘技場へと場所を移した。
ルールは簡単。一方が負けを認めたらそこで終了。負けた方が勝った方の要求を呑む。それだけだ。
「試合開始!」
カブトによる合図がかかる。腕が一時的とはいえ返ったことで大蛇丸は相当に余裕になのか、にたにたと笑い、オレはずっとそれを見ているだけ。
じゃ先手をいただきます。
「【屍鬼封「ストーップ!」
「【屍鬼封尽】って…卑怯よ!腕が返ってきた意味がないわ!」
「一時的って言ったじゃん。狡猾でもなんでも勝つためなんだから」
命を懸けるんだからずるいも何もない。勝てばそれでいいんだから。
「…もっともね」
でしょ?じゃ、大蛇丸の同意も得たことですし
「【屍鬼「だから止めなさいって言ってるでしょ!」
もう…何がしたいんだよ。さっきからタイムをかけまくりで。これじゃ試合が動かねえのなんの。
「降参よ。私の負け」
予想以上にあっさりと勝負は決まった。オレの目が見開かれる。カブトも、他の人間もオレが思っていることとは別の意味を持って目を見開いた。
大蛇丸が言うことには、屍鬼封尽を使われては手も足も出ないのだから降参するしかない、のだと。まあオレもそれを狙ったのだけれど。
「てことは勝負に勝ったのはオレだな。…うん、オレが求めるのはあんたの命」
「私の?」と繰り返した大蛇丸に頷きを返す。
命を貰うってことは、その人の人生そのものを貰うということ。なんてかっこつけたが、今まで大蛇丸がやってきたことをやり返しただけにすぎない。本当にざまぁねえの。
「オレが求めるのは新しい時代。新しい世界。一の世界。それを手にするためなら利用できるものなら何でもしてみせる」
理想を掲げたオレの瞳を、大蛇丸は興味深そうに覗き見た。
「新しいもの、ね…」
「そうそ…ってなんで頭撫でんだよ」
「丁度いい位置にあったものだから」
「ふざけんなよほんと!オレがチビだって言いたいのか!?まだ成長期なんだからな!これから伸びるんだからな!」
面白可笑しそうに大蛇丸は長い舌で舌なめずりをした。不愉快ではあるが、駒が一つ手に入ったんだ。それも大物の。それでよしとしよう。
「…ところで一つ訊きたかったんだが。オレとお前は性別違うのに、なんでサスケじゃなくてオレの方を選んだんだ?」
「あら、私にとっては最早性別など関係ないの」
「……変態か!?」
兎、狩人の首を捕る
(ま、オレは狐だけどね)
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