オレのつながりA
一瞬のことだった。ヤマトが反応する前にナルセの姿はサスケの目の前にあった。とん、とサスケの肩に手を回す。頭に挿している簪の黒い飾り紐が風で揺れた。
「なあ、お前ならわかるだろ?オレが正しいことを言ってる、って」
目には目を。歯には歯を。里の人間はナルセに文句を言うことなどできはしない。サスケはナルセに反論することはできなかった。
ギリと歯を食いしばったサスケが刀を抜いた。サイも短刀を向ける。だがすぐに体に違和感を感じる。
「無駄無駄。ここはもうオレのテリトリー」
よく目を凝らすと蜘蛛の巣のように糸が張りめぐされていた。これはナルセがよく使っていたもの。ただの糸だと思って体を動かそうとしても糸が体に食い込むばかりで動かない。
「動かないでくださいよ。面倒なんですから。少しでも動けば……首をはねる」
ぴ、と四人の頬に傷が入った。いつでも殺せる。そう宣言していたようであった。地表にいる狐が四人を見下すように笑った。
さてさてとナルセは笑いながらヤマトの前に躍り出る。ヤマトは旅館で出会った彼女との差異に戸惑うしかなかった。
「あなたがカカシ先生の代理に選ばれた理由はなんとなくわかりますよ、テンゾウさん?ああ、失礼。今はヤマトさんでしたね」
ま、そんなことは別にいいんですと言う。
「この網にかかったように、オレの耳にはあらゆる情報が入ってくる。ヤマトさん、あなたの木遁はオレ達には無意味ですよ」
凄まじい情報収集能力はヤマトの前の名を口にしたことで判明した。
ナルセに自身の木遁が無意味とはどういうことか。それを問おうとした時ナルセの影からチャクラが溢れ、何かを象っていった。
やがてそのチャクラは狐の形となった。ナルセの背中にまとう様に立ち、おぞましく笑う。
「ねえ、九喇嘛」
狐には九つの尾があった。
「九尾の…妖狐…ッ」
ここに来るまでに見たサスケの禍々しいチャクラとは比べ物にならないほどの恐怖と正反対の明るい毛の色が目立つ。
「写輪眼を持ったサスケやイタチにオレを制御させようとした目論見は失敗したな?だってすでにオレがコントロールしているんだから」
やはりナルセは九尾をコントロールできていた。いつでも木ノ葉を潰しにかかることができる。
クソ、とヤマトは歯噛みしつつ無理に体を動かして木遁の印を結んだ。それにいち早くナルセは気付く。
「【木と 「【風遁 烈風】」
太刀のような風がうねりながらヤマトの左肩を切り裂いた。ニィとナルセは笑う。
「手間かけさせないでくれません?次動いたら、ほんとに首を飛ばしますからね?」
糸の縛りの強さを強めた。首に糸が食い込んでいるのがわかる。ナルセは大きく跳躍して地表に出た。狐が傍に立つ。
ナルセは悪戯を楽しむように笑っていた。ナルセと再会してから笑顔しか見ていない。だがしかし、見たい笑顔はこんなものではないのだ。こんな歪んだ顔では。
「まだわからないのか!?もうじきお前の体は大蛇丸に取られるんだぞ!」
「大蛇丸に?…ククッ、あは、あはははははは!!こんなにうまくいってるとどこかで間違ってるんじゃないかって不安になるな!」
ナルセは腹を抱えて高笑いした。サスケの言ったことが可笑しくて仕方がない。そう言っているようだった。
笑いを抑えたナルセはもう語ることはないとでも言うように顔を背ける。
「少し話しすぎじゃないかしら?気取られるわよ」
突然にナルセの隣に現れた大蛇丸とカブト。大蛇丸の登場にカカシ班は驚く。
「別にこんぐらい問題はない。支障があるわけでもあるまいし」
「こらこら、その話し方は止めなって言ってるだろ。女の子なんだから」
「中々抜けねェんだから仕方ないだろ」
やんわりと注意したカブトはやれやれと溜め息を吐いた。ナルセはカブトの持っていたコートを翻しながら羽織る。
「次に会った時は幻滅させるなよ、二人とも。…ではまた」
ちらと二人に目線を移し、炎に包まれていって姿は消えて行った。
ナルセはまた去っていった。また遠くへ行ってしまった。また、助けられなかった。サスケとサクラの胸の内は絶望で埋め尽くされた。
サスケはナルセが立っていた一点をじっと見つめ、サクラはまた何もできなかったと後悔の涙を流した。
泣いたってナルセは帰って来ない。そんなことはわかってる。けれど涙が止まらない。拳を握り締める強さは段々と強くなっていく。
「泣くな、サクラ。また、ってことは次に会う機会があるってことだ」
「……うんっ」
サクラはサスケの慰めの言葉に涙を拭って笑った。
「時間、あと半年近くはあるんだよね。二人より三人の方がいいに決まってる。それにボクは結構強いからね」
サイの協力の言葉。素直にサクラは「ありがとう」と告げた。全員笑顔に切り替える。これから。まだこれから先があるのだ。打ちひしがれている暇はない。
空は青かった。青すぎて悲しかった。
それを絶ちきっても
(手を伸ばせば届く距離にいたのに)
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