オレのつながり@
サイの本当の極秘任務、それはうずまきナルセの暗殺であった。すぐさまサクラが異論を唱える。
「でも待ってください!ナルセは人柱力なんですよ!?それなのになんで」
ならば無理に連れ戻すことが上の考えることではないのか。苦労をして手に入れた尾獣なのだ。易々と手放すような真似をするはずがない。
「ナルセは木ノ葉に謀反を起こした。それに…ナルセは九尾をコントロールしている可能性がある。そんなものが木ノ葉を潰そうと考えている輩の手に渡ったら…」
そこから先は口にしなくてもわかる。確かに九尾の力は強大だ。尾獣の力を使って里を襲えば無傷で済むはずがない。
ヤマトはナルセの隣のページに載っている男を見せる。すでに×印がついていた。霧隠れの上忍。サイが抹殺したのであろうか。そんなに簡単な相手ではないはずだ。
「あの笑顔は…目的を達成するための嘘」
サイは自分自身で言っていた。厄介事をやり過ごすには作り笑いが一番だと。
ヤマトは続ける。このビンゴブックに載っている人物は木ノ葉に対する危険人物に当たる。サイはそんな人達を処理する仕事についていた。ナルセも危険人物の一人。
ダンゾウの真の目的は木ノ葉の危険因子となりうるナルセを始末することだったのだ。
「木ノ葉を裏切ったわけではなかった。ただ木ノ葉のために、と。…武闘派の考えそうなことだ」
ヤマトは忌々しく吐き捨てた。
とにかくここで話し続けているわけにはいかない。一刻も早くサイよりも先にナルセを見つけるべきだ。
*****
三人がサイの任務内容に気づいた同時刻。
サイの術である蛇は私室の机で何やら本を開いているナルセの椅子の足元にそっと近付いていた。ナルセは体を机ごと向こう側に向けていて顔を見ることができない。
自分の術で作った蛇がもう少しでナルセの体に届く。
「……サイくんか」
ナルセが気が付いた。それにより蛇は動きを止める。
「バレちゃいましたか。でも、ボクはもう先手を取っている」
「目的は何だ?」
「ダンゾウ様の目的は君を葬ること……ボクは君を、木ノ葉へ連れ帰る!」
そう高らかに宣言したサイ。サイは力強く拳を握り締めていた。ナルセは自分に返って来た答えに何も言わない。
「もっとも最初は、君を殺すつもりで来たんだけど」
サイは静かにそう言った。彼の頭を過るのはサスケとサクラが必至に彼を追う姿。
「ボクは彼らが必死にたぐり寄せようとしてる君との“つながり”ってのを、守ってみたいんだ」
それがサイの今の答え。里を出発した頃とは大違いである。
「……それで、君はオレの邪魔をするのか」
*****
突然アジト内に爆音が響き渡る。
それを聞いたカブトはアジトがもう使えなくなったことを危惧し、サスケ達は何事かと音がした方へ急いだ。
「ぐっ」
瓦礫の中にサイはいた。怪我はあるものの生きているようだ。
ナルセの攻撃によりアジトには大きな穴が開き、太陽の光が差し込む。陽の光によりきらきらと反射するナルセのくすんだ金髪を下から見てサイは目を細める。
「…まさか、ボクの術を強引に振りほどかれるとは」
立ち上がり、自分のターゲットの姿をよく確かめようと目を凝らす。そして思いがけない人物であったことに驚き、目を見開いたまま立ち尽くした。
「サイ!」
立ち上がったまま動かないサイをサスケ達は見つけ、一斉に駆け出す。サクラが最初に辿り着き、サイの胸元を掴みあげた。
「あんた本当は何が狙いなの!?私たちを何回裏切れば気が済む 「あはっ、先日ぶり」
頭上から最近聞いた覚えのある声が降ってくる。
そんな馬鹿な、と上を見上げるとサクラは目を見開いた。サイを掴みあげていた腕の力が緩み、サイの体は放される。そんな、と声がこぼれた。
「イツキ…さん……」
サクラに続き、サスケ、ヤマト隊長も上を見上げ目を瞠る。
全身黒の服が逆に目に痛かった。髪が緩やかな風で流れる。傍にいた狐が大きく唸った。
旅館で会った女性がここにいることに驚く。再会は喜ばしいことだが、場所が場所である。
「酷いなあ、友達の顔忘れちゃった?それとも…」
──オレの演技はそんなに上手だった?
宿で出会った彼女らしくない、ニヤリと笑ったイツキにはっと気付かされる。
「ナルセ……か」
サスケの呟いた名前にサイとヤマト隊長はばっと彼を見る。
「そんな、うずまきナルセは男のはずじゃあ…ビンゴブックにもそう書いてある!」
ヤマト隊長は生じた矛盾を口にする。嘘であってほしい、そんな願いも込められていた。
「なるほど。まだビンゴブックの情報はまだ書き換えられていないらしい。里に帰ってもう一度よぉくオレの忍者登録証を確かめることだね。そっちはもう変わっているはずだ。正真正銘、オレが桂イツキで…うずまきナルセさ」
口元を歪めてそう言ったイツキ…否、ナルセは四人を見下ろしたまま、くつくつと笑う。
忍者登録証の情報を意図的に書き換えたともあれば、『上』が関与しているのは確実だ。
なぜ上層部はそんなことをしたのか。気になるところではあるが、今はそちらに気を回している場合ではない。
「……ならいい。君がうずまきナルセというのなら、これからカカシ班は君を木ノ葉へ連れ帰る」
ふーんとヤマトを見定めるナルセ。サイは静かに背の短刀を握った。それに気付いたサクラが声を上げる。
「サイ!あなたやっぱり!」
サクラの声により気付いたサスケとヤマト隊長がサイを見る。しかし彼はじっとナルセを見上げる。
「それでぇ?サイくんがオレの後釜?二人とオレのつながりを守るだか言って、オレを殺すこともできないのに?」
ナルセの発言にサクラはサイのことを見返す。
「確かにボクの極秘任務の命はイツキさん…いや、ナルセさんの暗殺だった」
「…ダンゾウめ…昔っから鬱陶しい。…いやこれは余計だな。それで、命令を無視するつもりかい?」
態度が一変したナルセに戸惑いながらもサイは続ける。
「いや、命令はもういい。今は自分の考えで動きたい。サスケくんとサクラさんが思い出させてくれそうなんだ。ボクの昔の気持ちを…。何か、とても大切だった気がするものなんだ」
サイは短く息を吐き、少し間を置いて続ける。
「ボクは君のことを宿で話したくらいしか知らないけど、サスケくんやサクラさんがここまで必死に君を追うのには何か訳がある。君とのつながりを切るまいと、つなぎ止めておこうと必死になっている。
ボクにはまだはっきりとはわからない。けど、ナルセさん!君にはわかってるはずだ」
ナルセは笑みを浮かべたままサイを見る。
「そうだね……だから、断ち切った」
ナルセの声は恐ろしく冷たかった。冷たく傍の狐と笑いながら言葉を続ける。
「あんな里なんて、オレには牢獄に等しいものだ。つながりがあの場所にオレをつなぎ止める物であるならば、それを断ち切るだけ。簡単じゃないか」
ナルセは笑ってこそいたが、木ノ葉の里に対する憎悪がそこに込められていた。あの里が自分に対してしたことを忘れるはずがない。忘れてはやらない。
それを言われると苦しいのか、サスケもサクラも目を逸らした。
「なら……どうして、どうしてあの時オレを殺さなかった!それで断ち切ったと言うのか!?」
「それも簡単。お前は殺す価値すらない、ってことさ」
苦し紛れに叫んだ言葉はどこかで聞いたことのある台詞で否定された。
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