星の瞬き | ナノ

  不協和音の遠来


誰かこの状況を説明して欲しい。

どうしてあたしの目の前に火影岩があるのかを。




あたしの名前は大城莉愛奈。莉愛奈と書いてリアナと読む。

性別は女。歳は十六。ピッチピチの現役女子高生である。え?ピッチピチは死語?そりゃ言っちゃいけません。

コンプレックスはこのキラキラネーム。子供は生まれた瞬間、自分の名前を決められない。まっこと理不尽だ。

幼女、男の娘、百合、おっさん、男×男なんでもござれ、バッチコイな腐女子と公言できるオタクである。デュフフ


そんなあたしが現在立っている場所は爽やかな風が吹き上がる丘の上。新鮮な空気を胸一杯に吸い込める。


さて。あたしは昨日と同じく朝起きて、眠たくなる退屈な授業を受けて、帰宅していたはず。こんな爽やかな場所は知らないんデスが。

突風で捲れたスカートを押さえて目を開けたら知らない場所。何ソレ怖い。


目の前には五つの人の顔を象った岩壁。うわーい、すごく見覚えがあるよ。某忍者漫画に出てくるものだよね?ドラマか何かのセット?とってもリアル♪

なんてふざけてられるかっ!

いくらなんでも精密すぎデス!街並みまで完璧に再現できるわきゃねェ!


これは、つまり…アレだ。


「トリップ……デスね」


*****


およそ三年前。まだナルセが里にいた頃の話である。

ナルセとサスケの二人は共に丘の上で修行をしていた。丘の上は演習場のような設備があるわけではないものの、人気はないし見晴らしがいい。修行をするには格好の場所である。


「今回教えるのは【飛燕】というもの。チャクラによる武器強化だ」


そう言ってナルセは二本のクナイを取り出した。普通のクナイである。そのうちの一本をサスケに手渡し、自分もクナイを構える。


「チャクラを流し込むとどうなるか。実際に見た方が早い。ちょっとあの岩に投げてみて」


ナルセが指したのは押しても動きそうにない重そうな岩。サスケは言われた通りに岩へ投げつけた。しかし、当然のことながらクナイは岩に一本の線をつけただけで跳ね返った。

ナルセは「まあこんなもんでしょ」と笑って、クナイにチャクラを込めた。淡いチャクラの色が見える。

さっと軽く投げた。するとただそれだけなのに、クナイは岩を貫通して粉々にしてしまった。考えるまでもなく威力は桁違いである。


「少量のチャクラでこれだけの威力。オレは結構便利だと思うんだけどな」

「もしかして普段お前が使っているやつか?」

「あ、ワイヤーのこと?そう、それそれ」


ナルセは返事をしながらクナイを回収しに行った。ナルセが投げたクナイは岩を貫通したというのに、刃は全く駄目になっていなかった。会得すれば相当便利なはずである。


「ま、こんなもんかな?じゃ、オレは帰るから」

「は?おいっ、ちょっと待て!」


せめてコツでも伝授していけばいいものを、ナルセはすたこらさっさと走って行ってしまった。



そんな微妙な思い出の場所に向かうサスケ。定期的にナルセと何かした場所を訪れている。女々しいとは思うが、感傷に浸りたいからだ。

中でもあの丘は人が中々来ない。女性達の黄色い声から遠ざかりたいサスケには安らぎの場所となっていた。


しかし今日は違った。人がいた。女だった。

失敗したと悔やむが、その女をよく見ると里で見たことがない奴だった。


「お前…何者だ」


瞬時に背後に回り、首筋にクナイを向ける。


「ピギャッ!あ、ああ怪しい者ではございません!どこにでもいる小娘デス!ひ弱な人間デス!だから殺さないでくださいーっ!」


お代官様、どうかご堪忍してくださいませーッ!と訳のわからないことを女は言った。

どうやら害は無さそうだと手を引く。その瞬間、女はぐるりと振り返ってありがとうございます!を繰り返した。


そしてサスケは女が顔を上げて驚いた。

亜麻色の髪を耳の上辺りで二つに纏め、見たことがない服を着た少女。あどけなさはまだ残るが、容姿はおよそ可愛いに部類されるような人であった。自他共に二枚目と思われるサスケですら一瞬息を呑んだ。


「ってアレ?サスケ?」

「…どうしてオレの名 「やったすごいラッキーじゃないデスか!トリップ早々イケメンに会えるなんて…もう感激デス!!」


一体どんな頭をしているんだとサスケは思った。

殺されるかもしれなかったのに変な命乞いの仕方をしたり、人の顔を見て急に目を輝かせたり…。


「(とりあえず火影のところに連れて行くか…)」


面倒事は他人に任せるのが一番である。


*****

火影室の前までサスケとリアナの二人は来た。

少女はここに来るまでの間ずっと、周囲の物事全てを興味津々に眺めていた。

「あれが噂の一楽デスか!?」
「あの建物が火影邸!?すごい!大きいデス!!」
「火影岩って近くで見るとまた迫力が違います…!」

等々の発言。
本当に何がしたいのか分からない奴だ、とサスケを悩ませた。


ノックをして扉を開けると、そこには綱手とシズネの他にサクラやカカシ、サイまでもがいた。


「サスケくん!丁度良かった。なんだか侵入者の捜索をするらしくて。これから呼びに行くところだったの」

「侵入者…たまたまそれらしき人物を連れて来たところなんだが」

「そうか。…入れ」


綱手がそう言うと、サスケの背後から少女がひょっこり顔を出した。丸い目を何度かぱちくりとさせる。亜麻色の髪が揺れた。


「初めまして、大城リアナって言います!」


ピシッと敬礼したリアナと名乗る少女。侵入者として捜索されているのに暢気な態度。気のせいか、目が輝いているように見える。

その妙なテンションに一瞬怯むものの、綱手は火影としての仕事をする。


「堂々と侵入したのがこんな小娘だとはね…。お前、どこの忍だ」

「あたしは一般人デスよー。忍術なんて使えませんー」


両手を挙げて降参のポーズをとるリアナ。

侵入者はある人によって強化された警備の目を掻い潜って里に侵入した人物だ。あれをすり抜けるとは。忍でないと出来ない芸当であるのに。なら一体どうやって里に入り込んだんだと問いたい。

リアナはそんな他人の疑惑の視線など目に入っていないようで、一人うんうんと悩んでいた。


「あたし、こういう場合どうしたらいいのかわからないんで言っちゃいますね。

信じてもらえるかわかりませんが、あたし、異世界から来ました」



「「「…は?」」」


リアナ以外の人の声が揃った瞬間であった。リアナはその頓狂な声に不満を露わにし、口を尖らせる。


「あ、信じてませんね?いいデスよ、別に」

「…百歩譲って異世界から来たとしよう。ならどうしてオレの名前を知っていた」


横から飛んできた質問。少々癪に障る問い方ではあったが。

リアナが言った、異世界から来たということが嘘であれば、このサスケからの問いに何かしらのリアクションを起こすはず。焦るなり動揺するなり、何か行動を起こすはずである。

その場にいた全員がリアナの反応を見逃さない自信がある熟練の忍であった。

しかし、その期待は裏切られた。リアナには慌てる必要がないので平然としてサスケの問いに答えた。


「あたしのいたところではこの世界はフィクションとして知られているんデス。だから、あたしが今までここにいなかったとしても、ある程度のことは知っているんデス。

例えば、そうデスねぇ…。綱手様の恋人のダンさんと弟の縄樹さんが亡くなったこととか、カカシ先生は戦争で同じ班員のオビトとリンを亡くしたこととか」


リアナの言ったことは真実であった。今では全くと言っていいほど語られていない過去の話。しかも名前までピタリと当てて見せた。

リアナの言ったことと態度。それらから異世界は存在するのだと思い知らされた。動揺させようとしたのに、却ってこちらが動揺する破目になった。


「でも良かった!あたし、この世界大好きデスから!トリップ早々こんなにも沢山の主要キャラに会えるなんて思ってもみませんでした!

例えばサスケ!流れる黒髪、漆黒の瞳、溢れ出るフェロモン。流石うちは一族デスとでも言っておきましょう!!」


ビシィっとサスケは指差された。気付けば元々輝いていた瞳を一層とキラキラとさせていた。サスケは何かしらの危機感を感じた。

その次に、とサイが指差される。サイはあまりの迫力に後ずさった。


「その美しい肌、魅惑的な腹チラ!ほんとにあたしのひとつ上なんデスか!?理解不能の魅力デス!」


くっはー!と意味のわからない叫びと共に鼻頭を押さえた。最後に、とカカシ先生が指差された。


「時たま見せる真剣な瞳。その艶めかしい腰のライン。ほんとにアラサーなんデスか!?悩ましい!!」


リアナの暴走っぷりに周りの人達は若干引いた。リアナの周りには蝶々や花が飛んでいるように見えるのは自分が疲れているせいなのであろうか。

唯一カカシ先生だけがアハハ、と乾いた笑いを溢した。


「なんだかナルセみたいな子だネ。もっとも、あの子は主に女の子にアピールしてたケド」


カカシ先生の言葉に室内はしんとした。しまったとカカシ先生が後悔しても時すでに遅し。重たい空気が部屋を満たした。

気付けばさっきまで興奮していたリアナですら黙り込んでいるではないか。見ればリアナは目を丸くさせていた。


「ナルセ…デス、か?」


目をぱちくりとさせてリアナは誰にともなく尋ねる。どこかおかしなところでもあっただろうかと回想しようとした時にリアナがそれを遮った。


「あ、えっと…親友と同じ名前でしたから。…で!一体誰のことデスか?」

「カカシ班の一員ですよ」


サスケとサクラに答えさせるのは酷であろう、とサイが答えた。だがリアナはその答えに納得していないのか目を丸くさせたままだ。


「…へ?だってカカシ班のメンバーはサスケとサクラとカカシ先生、サイとヤマト隊長。それから『ナルト』じゃないデスか?」


リアナの言葉に他の人達は首を傾げるばかりである。寧ろ、そのナルトとは誰のことだ、と。


「う、嘘言わないでくださいよ!四代目の子供で、九尾の人柱力のうずまきナルトじゃないデスか!?」

「オレ達の実子はナルセ唯一人だよ」


激昂するリアナの声を抑えたのは金髪の男性であった。静かな口調ではあったが、リアナを抑えるには十分であった。


「先生…」

「なん、で…だって、ミナトは屍鬼封尽で……」


割って入ったのは先程のリアナの発言の中にあった四代目火影、波風ミナトであった。ミナトは苦笑しながらリアナに「ん、色々とあったんだよ」と言った。

それでリアナは気付く。よくよく考えてみれば可笑しいことばかりじゃないか、と。

まずサスケが里抜けしていないし、ミナトが生きている。ナルトがいない。ここは平行世界で、成り代わり主がいる世界じゃないのか、と。


「侵入者がいるって聞いて一目見たくてね。随分と可愛らしい子みたいだ。君の言うナルセの話をぜひ聞かせてくれないかな?」

「(くっ!イケメン!年齢詐欺!そして女慣れしてる!)」


ミナトはリアナに一見口説き文句とも取れる台詞を口にしてお願いをする。


リアナはミナトの言葉を聞いて元気よく頷く。


「いいデスよ!大事な嫁についてならいくらでも語ってあげます!」


既に親友と同じ名前ということは頭から振り払った。名前が同じなだけデスよ。同じ名前の人なんてこの世には五万といるのだから、と。

そして少女は語り始める。


「彼女の名前は望月ナルセと言います」


その名はあたしの、たった一人の愛しい親友のもの。



亜麻色の少女は語る
(あたしの嫁はそれはそれは可愛いんデスよ!)
(((嫁…?)))

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