この決断こそが@
演習場で修業を行った夜のことだ。やること終えて、寛いで、飯を食って。緑茶を飲みながら憩いの時間を満喫する。
それだと言うのに来客。驚きでごほごほとむせてしまった。
「なぁ再不斬。ストーカーってどうすればいいと思う?」
「ストーカー?そんなもの皆殺しにすればいい」
「それはちょっと好ましくないな」
というかそりゃ狂気の沙汰だ。どうやらアドバイスを求める相手を間違えたようだ。そもそもの問題になっちった。
さて、ほんとは嫌なんだがオレが客を出迎えなきゃいけないみたいだな。すっごく、心の底から、冗談じゃないくらい、嫌なんだけどなぁ。
玄関を出て姿を現さないお客の人数を確かめる。一、二、…四人。いや五人か?まあどっちでもいい。
どうやらお客様は素直にオレの前に姿を見せないようだ。それならば仕方ないとホルスターに手をかけ、手裏剣を四枚気配がする方向に投げつける。ガサリと茂みが動く音がして四つの影がオレの前に現れた。
「オレ達は音の四人衆」
「うずまきナルセだな。大蛇丸様がお呼びだ…一緒に来てもらうぜよ」
四人は各々武器を構えオレを見やった。赤髪の女の子に頭が二つの男、唯一額当てをして腕が六本ある男にやたら図体がでかいヤツ。
「寄って集って子供を苛めようとして。性格悪いなぁ、お前ら」
「(本当に悪いのはお前の方だろう)」
肩を竦めてそう言うと、腹の中からツッコミをもらった。どうもありがとう、相棒!こいつら乗ってくれないから寂しかったぜ!
馬鹿馬鹿しい、とあちらさんの四人はお気に召さなかったらしい。二つ頭の男がオレを殴り飛ばす。「弱え」と呟いた。
「大蛇丸様はなんでこんな弱いやつを欲しがってんだか。これじゃあ君麻呂の方がまだマシだぜ」
「なら、ここに来なければよかったのに」
先程殴り飛ばしたはずのナルセが背後から喉笛に爪を突き立てていた。じゃあさっき殴ったのは、と見ると丸太に変わっていた。変わり身か。いつの間に印を結んでいたのかと感心する。
「んー…待てよ?ここに来るなって言ったけど、そうしたらサスケのとこ行くよなお前ら。そりゃ困るし、あー、お前らどっかで見た顔だと思ったらあれか。お前ら中忍試験の時結界張ってたやつらか。はいどーぞー。名乗って」
「音の四人衆、東門の鬼童丸」
「同じく西門の左近」
「南門の次郎坊」
「北門の多由也」
「はは!一気に四人の名前を覚えれるかわかんねぇや」
本当は前世から存じておりましたけど、と心の中でペロッと舌を突き出した。
警戒しているのかしていないのか、よくわからないやつだ。じり、と鬼童丸が地面を踏みしめると「おっと」と言って左近の背中に冷たい金属を突き付けた。
「動かれたら困るなぁ。動けばその瞬間……殺す」
隠していた殺気が四人に牙を剥いた。四人はぞっと恐怖する。大蛇丸様が欲しがるのもわかる。あの恐ろしい主と同じくらい痛い殺気だ。
「そんなビビるなよ」とナルセは笑った。遊んでいるのか。実力差があるのだ、仕方ないと四人は半ば諦める。こうなればもう一人の候補のところに行くか、とアイコンタクトで四人は会話をする。
「おーっと。サスケのとこに行こうとすんじゃねえぞ。誰もついて行かないとは言っていないんだから」
ナルセはぱっと左近を拘束していた手を離した。
「嫌なことしてくれるよねぇ。人質、だなんてさ。…一時間以内に向かう。里の外で待て」
「…わかった」
成る程、大蛇丸様がなぜ二人も候補を立てていたのかようやくわかったと音の四人衆は納得する。了承の意を告げて四人は瞬身で姿を消した。
「再不斬、白。ごめん。こういうことになった。二人とはここでお別れだ」
四人衆が去ったことを確認して藪に声をかける。最初からそこにいたのは知っていた。二人は大人しく前に出てくる。
「抜け忍になるということがどういうことか、わかっているんですか!?」
もちろん重々承知さ、と冷静さを失った白に返す。元々抜け忍だった二人だ。抜け忍の暮らしが苦しいことぐらい、よく知っているだろう。
里を抜けるなんてただ事ではない。追い忍に追われ、食べ物には困り、住む場所を探すのだって容易いことではない。毎日を生きることですら苦痛なのだ。
経験したことがあるからこそ断言できる辛さ。今あるいつも通りを捨てることをしなくていい。
白は口で、再不斬は目で反対の意を唱えた。反対されるだろうことはわかっていた。けれど、それでもだ。オレだって覚悟を決めた。簡単に覆すわけにはいかない。
「もう大切なものを失いたくないんだ。守りたい」
「……ボク達にも…守らせてください」
そんな縋るような声を出さないで欲しい。割り切るもんも割り切れねえよ、とヘラヘラと笑いながらナルセは言う。
波の国で初めて会った時は敵同士であった。子供が提案してきた取引に乗って木ノ葉に来て。どういう理由であれ、追い忍と戦闘を繰り広げていた日々とは比べ物にならないほど穏やかな日々を暮すことができた。
身の安全も、職も、住む場所も、全てこの子供に保障された。この子供だからこそついて行こうと二人は決心したのだ。
「ハヤテくんと三人になっちゃうけど、頑張ってね」
「…それはできねェ相談だな」
ここに来た理由を思い出して再不斬は反論する。ナルセは思わぬことに目を丸くした。
「俺はテメェがいるからここに来たんだ。テメェがいねェ木ノ葉に価値なんてないな」
ナルセを真っ直ぐに見つめる再不斬の目には、確かに意志が宿っていた。その目を見てナルセはぱちくりと何度か瞬きをした。
「は、はは。また追い忍と追いかけっこするんだよ?」
「昔に戻るだけだ」
「ハヤテくんはどうするの?」
「どうせあいつもついて来るに違いねェ」
「…後悔しても知らないよ?」
挑発的な笑みを浮かべた再不斬。
「するならとっくにしてる」
どうしてそんなに自信満々に言い切れるのだろうとナルセは思った。中々に頑固な二人のこと。どうせもう何を言っても聞かないだろうなとも思った。
「仕方ない、降参だ」肩を竦めてそう言うと、二人はその答えが欲しかったとでも言うように満足そうに笑った。
「俺達は何をすればいい」
「ハヤテくんは何て言うと思う?」
「俺達と同じことだ」
ふぅん、と呟く。なんとも頑固な忍ばかりが部隊に集まったもんだと苦笑する。
「おそらくすぐに捜索隊が編成される。騒ぎになる前に出発しろ。後に合流する。そして再不斬、白。先に宣言しておく。オレはこれから里抜け以上の大それたことをするだろう。後悔はないな?」
「一度無くしかけた命だ」
「今更、ですね」
なんともまぁ、本当に頼りになる部下達なんでしょう。
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