星の瞬き | ナノ

  幻の彼方


チヨを加えた第七班は我愛羅がいるとされる川の国へ向かっていた。


「皆止まれ!」


森を抜けたところ、ある人物と遭遇した。

ある人は過去を思い返し、ある人はその目を見て反応をし、ある人は見知らぬ人物だと思い、ある人は思わぬ巡り合いに目を見開かせた。


「兄さん…!」


サクラはサスケの言葉に息を呑み、目の前の人物を見返す。


「(この人がうちはイタチ!サスケくんの…お兄さん)」


兄弟なだけある。確かによく似ているものだ。一目見て抱くクールな印象はどちらに対しても感じた。

チヨバアはチヨバアでその名を知っているのか「あの一族殺しの…」と呟いた。


「久しぶりだな、サスケ。カカシさん」


両者の間に緊迫した空気が流れた。イタチが動きを見せた時である。


「皆、やつの目を直接見るな!サスケは写輪眼でオレを援護しろ!」


すぐさまサスケは写輪眼を見せる。そしてカカシはガイの言葉を思い出し、サクラに手や足の動きだけで行動を推測するのだと指示を出す。

チヨバアはイタチが幻術使いなのであれば複数であるこちらが有利だと言うが、イタチは万華鏡写輪眼を持っている。幻術を解く解かないの問題ではないのだとカカシは喚起する。それは実際に術中に嵌ったことのあるカカシとサスケがいるからこそ言えることだ。


カカシはわかっていることはそれだけではないと言う。


「イタチよ、お前の視力どこまで落ちている?」


その発言にはイタチだけではなくサスケまでもが驚いた。


「カカシさん、あなたまさか…」


カカシも自分の眼を出す。そのままイタチに向け拳を向けるが、その脇をイタチがすり抜けていった。


「影分身!」


サスケの元へ一直線に駆けるイタチに、サスケは千鳥を向けた。次第に景色が歪んでいき、傍からはサクラ、チヨバアに続きカカシの姿が消えていった。

千鳥の戦慄きだけが響き渡る。ぽつりと独り言のようにサスケは言葉を口にした。


「兄さん、どうして暁に留まり続ける…一族の名誉は取り戻したんだ。ナルセの…おかげで」


だから里に戻って来い。そう言外にサスケは伝えたかった。

サスケが千鳥で貫いていたイタチの姿はゆらゆらと消えていき、数歩先に別の彼の姿が現れた。そしてサスケの問いに首を振って否定した。


「オレはまだ、あいつの傍を離れるわけにはいかない。邪魔立てするならたとえお前でも容赦はしないぞ…サスケ」


そう言った途端イタチの体はカラスに分裂していった。

どうにもこの兄は昔と同じように自分に全てを話してはくれないようだ。残念だと思いながらサスケは掌を合わせる。


「幻術返し、か…オレの術を。成長したな、サスケ」

「オレもうちは一族の一員だ」


イタチ相手に容赦をしていたらこちらがやられる。サスケは素早く印を結び、【鳳仙花の術】を使う。それを避けたイタチは【豪火球の術】で対応。

カカシの千鳥を華麗に避けながらイタチはうすらと笑った。サスケはそれに違和感を感じるも腰の刀に手をかけた。刀に雷が流れる。


「(千鳥刀…!)」


*****


サスケが切ったイタチの元へ向かう。そこには信じられない光景が待ち受けていた。


「違和感の正体はこれか…」


それぞれ困惑の色を浮かべる。倒れていた男はイタチではない、別の男であった。「こやつ…」とチヨバアが声を上げたことでカカシは知っているのかと問う。


「由良…うちの里の上忍だ…」


由良はもう四年も里の上役を務めた忍だ。それがまさかこんなことになるとは…我愛羅が行方不明になった直後からこいつの姿も消えていた。おそらく暁のスパイだったのだろう。

変化の術ではない。イタチが使った術。あれはうちは一族が好んで使用する技であり、あの術は本物であった。なにか特殊な術を使ったに違いない。

これは明らかな足止めである。すでに暁は尾獣の引きはがしに取りかかっているはずだ。


「ねえ、人柱力って一体なんなのかしら?わざわざ封印しなくても…」


サクラがふとこぼした。それに対しチヨが「知らんのか…」と呟く。木ノ葉において尾獣は完全に極秘扱いである。いくら調べ回ったとは言え、知らないことはまだ多くある。

この世には尾を持つ魔獣、“尾獣”が合計で九体存在する。


「尾獣は人智を超えた力を持っておる。その力を各国は利用しようとしたんじゃ。…尾獣を人に封印し、コントロールすることによってな」

「(ナルセ…)」

「……」


二人はかつてナルセが打ち明けてくれた己の出生を思い出していた。

彼女は何てことなさそうに言っていたけれど、事実は生け贄と同等のものではないか。彼女と我愛羅の悲しみは計り知れない。


人柱力の特徴は尾獣と共鳴し、信じられない力をふるえることだ。チヨバアはさらに、砂の歴史にはこれまで我愛羅を含めた三人の人柱力がいたと言った。


「その人柱力を使って何度も戦争をしてきた」

「それじゃ!人柱力にされた人は…ッ!」


それ以上は言葉にせずとも理解できた。

彼女は望んで人柱力になったわけではない。余計に幼少期の惨い扱いに対して後悔が強くなる。


「どうやれば、その尾獣を取り出せるんですか?」

「瞬間的にでも尾獣と釣り合うだけの効力を発揮する封印術と、かなりの時間を要する。だが、それをしてしまえば人柱力は…」


中途半端なところで区切ったチヨバア。サクラの頭に最悪の答えが浮かぶ。「まさか…っ」サスケも予想がついたのか固唾を呑んだ。


「……そうじゃ。尾獣を抜かれた人柱力は…」

――死ぬ


告げられた人柱力の終末にサスケとサクラの二人は目を見開く。


「さっき言った二人、我愛羅以外の砂の人柱力はいずれも体内より守鶴を抜かれ、それが原因で死んだ」


残酷すぎる生死。大事な友人がそれを背負っていると考えると、サクラには耐えきれなかった。頬を涙が伝う。

彼女の頼り強く、脆い背中を思い出してただただ涙が止まらなかった。


直面する現実の惨さ
(こんな人生、あんまりよ…)


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