音を楽しむ
「……暇だ」
暇だ暇だ暇だ暇だ果てしなく暇だ!
やることが何もない。暇潰しできるものもない。修行でもしてろ?ハッ、オレの元々の夢はニートだってのに、なぜ今さら鍛え上げねばならない。折角忍なんていう職業から逃げられたのに。
「なんでこんなに暇なんだーー!!」
「うるさいです」
痛い!脳天にハヤテくんの拳骨が降ってきた。だがお星様が見えるレベルじゃねえな。拳骨のスペシャリストは後にも先にもイルカ先生ただ一人のようだ。
ハヤテくんがゲホゲホと咳き込みながらもう一度拳を握ったので、お口をチャックしようと思う。
「そんなに暇なら笛でも吹いていたらどうです?」
「笛…?斬新な提案だな。てかなんで白が笛なんて持ってんのさ」
「音の四人衆の人から貰いました」
笛に四人衆っていったら……多由ちゃんじゃねえか!?いつの間に贈り物を貰えるレベルまで仲良くなってたのかよ!?
そう…!オレとのことは遊びだったのね!とふざけると白い目をされたので痛む胸を労わりつつ笛を受け取った。
笛を吹く、なんてのは人生初めてのことで。ましてやリコーダーなどではなく横笛だ。微かな緊張を覚えつつ小さく息を吹いた。
「ピョロ〜ッ」
……仕方ないな!初心者だもんな!横笛なんて初めて吹くもんな!
おいこら九喇嘛。馬鹿にしたような目で見てんじゃねえよ。
そもそもオレは音楽が得意じゃないんだ。音が出ただけでもまだマシだと思え。それに対して彼女は音楽がこれでもかと言うくらい得意だった。
…干渉に浸りかけてしまったが、今は直面している問題に取り組むべきだ。これじゃあ暇潰しができないじゃないか。…いや待てよ。オレってばいいこと思いついた。天才じゃん!と息巻いて部屋を飛び出した。
「多由ちゃ〜ん、笛教えて〜!」
「馴れ馴れしくすんじゃねえよ!あと変な呼び方すんな!」
え?可愛いじゃんな?多由ちゃん。ニックネームで呼ぶのは距離を縮めようと努めている一つだと受け取って欲しいものだ。
「なんでまた急に……」
「だってだって、暇なんだもん!」
とりあえずキモいからその口調を止めろと言われた。うん、オレもそう思った。
横笛と言えば多由ちゃん。そしてこれを機に距離が接近。ヤバいな。やっぱオレ頭良い。何だ何だと他の四人衆がチラチラと様子を窺っているようだが、今は邪魔だ。野郎に用はねえ。
多由ちゃんは自分の笛を取り出していいか?と指導を始めた。指白い可愛い唇キレイ可愛い可愛いツンデレいいよね可愛い。なんて思ってたらヤル気あんのか?と睨まれた。すみませんやりますから見捨てないで
*****
「…何してるんだい?」
「なんだカブトか。別に。新しいことにチャレンジしようか、と」
それに折角人から教えてもらったんだしな。できないからと諦めるのは少々無礼かと。てわけでコツを教えてもらって笛の練習をしてたわけだが。これが中々上手くいかない。それじゃあただの騒音だ、とカブトは耳を塞いだ。失礼な。
ここで会った縁というか同じアジトにいるんだから顔を合わせるものだが、いやとにかく。世間話でもどう?と誘う。返事なんて聞かないけど。カブトもわかっているのか、何も返さず自身の作業を始めた。
「オレさー、お前のこと知ってたって言ったじゃん?」
「それが何か?」
「お前が大蛇丸のスパイだってのも知ってたけどさ。もっと深いとこまで知ってんだよね。例えば……育ての親に手をかけたこととか」
ピョロ。あ、またミスった。
カブトの反応はどんなものか、目を向けると彼は作業していた手を止めていた。
幼い頃、施設で育った彼は里から支援金を受け取るために根に入った。そこで嵌められてかつて凄腕のスパイだったマザーを殺した、という。さらに自分も殺されかけた、という。
普通の悲劇の人だ。
「で?今お前を動かしてるのは何なわけ?母を殺した罪悪感?己が憐れだと自分で自分の傷を舐めているだけ?ただ現実から目を逸らしたいという逃亡願望か?」
「…ッ、何が言いたい」
「別に何も?」
ガキに翻弄されて苛立ちが爆発しそうになっているんだろう。わざとしているのはオレ自身だが。
カブトは耳を塞ぎたかった。不快だと跳ね除けたかった。けれど一度耳に入ってしまったものは抜けない。
「僕のことを間抜けだと嘲笑いたいだけか」
「まさか」
育ての親を殺してしまったのは、謂わば不可抗力だ。彼の力の及ぶ範囲でなかっただけだ。
「お前は何も悪くないさ。オレが認めるよ」
カブトみたいな悲劇の人が『普通に』たくさんいるこの世の中はおかしいんだよ。世の中が狂ってるんだよ。
惑わす不快音
(また外れた)
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