命を懸けた賭け
「あの子、よろしくないわね…」
「綱手は医療スペシャリストだ。案じずともナルセの身に心配はないのォ」
自来也は目の前のことに集中しなくていいのかと大蛇丸に言った。チャクラがうまく練れない状況と両腕が使えない状況。それぞれのハンデにより戦況は五分五分である。
大蛇丸は思った。うずまきナルセは自分が器として欲している存在である。だが里にいては手が出せないし、ナルセ本人の実力も未知である。暁に渡るとさらに厄介なことになってしまう。
「(つまり…手に入れるなら、今!)」
大蛇から滑るように落下していく。それを見て自来也も慌てて追う。
大蛇丸は振り返り舌を伸ばして、自来也の足を捕縛する。そのまま自来也は地面に叩きつけられた。
その状態から大蛇丸はナルセに向かう。ナルセは今弱っている。連れて行くのは容易いことだ。だが念には念を。さらに保険をかけるために口から蛇を、その蛇の口から刀を突き出した。
「(この子を狙ってる!?)」
いち早く大蛇丸の狙いに気付いた綱手はナルセを庇ってその刀を胸に受ける。血を吐き、呻き声を上げた。大蛇丸は刀を抜き、また刀を口の中に仕舞い込む。
「綱手、あんたを殺す気はなかったのに。その子は抵抗できない内に私が連れて行くの。邪魔しないでくれる」
「この子だけは…この子だけは絶対守る!」
綱手は血に震え、傷に痛みながら絶え絶えにそう言った。フンと大蛇丸は嘲笑った。
「血に震えながらなぜ三忍の一人ともあろうあんたが、どうして会ったばかりの子にそこまでしようとするのかしら?」
綱手にはその子供をここまでして庇ってやるほどの付き合いはないというのに。綱手は大きく血を吐き出す。
「木ノ葉隠れを…里を、守るためよ!」
「木ノ葉を守るため?」と大蛇丸繰り返した。綱手は眉尻を下げながらナルセに振り返る。
「なぜなら…なぜならこの小さなガキが、私に多くの命を託してくれたからね」
「何を馬鹿な世迷言を。それに…火影なんてクソよ!馬鹿以外やりゃしないわ」
綱手は大きく目を見開かせた。それは前に一度自分がナルセに向けて言った言葉であった。
――二人の願いを…何より綱手様、あなたの願いを!夢を忘れたんですか!
――歴代の火影達は木ノ葉の里とそこに生きる者達を守り、乱世を治め、里を繁栄させるというその理想。その夢に命を懸けた
――簡単なことだ。あんたが命の重みを誰よりも知っているからさ。…あんたはオレの大事な人達の誇りを継ぐのに相応しい。オレはあんたに受け継いで欲しい
縄樹の夢であり、ダンの夢で、自分の祖父がやり遂げたもので、自分の師匠が務めたもので、ナルセが自分に託そうとしたものである。
先人達は里を守るために、その“命”を“里”に賭けたのだ。綱手は力を込めて立ち上がった。
「ここからは私も…命を懸ける!」
その眼力に怯むも大蛇丸はフンと笑った。
「そんなくだらない夢に投げ出す程度の命なら…それ相応にさっさと、散れ!」
大蛇丸は刀を振るった。刀は綱手の胸を裂く。血が噴き出した。綱手の体は崩れていき、地に倒れる。
「あとは、ナルセちゃんね…」
「綱手様!」
シズネは叫び、自来也は間に合うようにと印を結んだ。大蛇丸が刀を振るう。もちろんのことながらナルセは意識がないから避けることはできない。
だがまたしても庇ったのは綱手だった。驚くあまり大蛇丸は刀を仕舞う。肺までを切り裂いたというのに綱手はまだ動く。
「フン…あんたも死にそうだってのに、まだ庇うっていうの?」
「言っただろ…ここからは、命を懸けるって!」
綱手は下から覚悟のこもった睨みつけた。それがどこか癪に障った。
「この死に損ないがぁ!!」
大蛇丸は綱手を蹴り飛ばした。綱手の体は震えている。
「いくら気取ってみたところでその震えは止まらない。血液恐怖症の呪縛からは逃れられない。そうまでして、なぜあんたがあの子のために傷ついていくのか。なぜ木ノ葉などの為に戦うのか」
全くもって見当がつかない。ただ死にに急いでいるようにしか見えない。馬鹿の極みだ。
その時綱手の震えが、止まった。瞬時に大蛇丸を蹴り上げる。
「なぜなら、私は…木ノ葉隠れの五代目火影だからねぇ!」
理由はこれだけで十分なのだ。
綱手は血の恐怖を克服した。額のマークから印が広がる。
「今更何をしようと言うの?血液恐怖症を克服したところで、その傷ではまともに戦えないわよ」
フと笑って綱手は印を結んだ。それを見たシズネが慌てる。
「ま、待ってください!傷は私が治します!だからッ、その封印は解放しないでください!」
だが綱手はシズネの制止を無視して封印を解除する。傷が見る見る内に熱を発しながら癒えていく。傷を治し終えた時、印も消えた。
一体どんな術を使ったのかと大蛇丸は綱手に尋ねた。
綱手は長年チャクラを額に溜めている。その大量のチャクラを利用して、各種タンパク質を刺激し、細胞分裂の回数を急速に早める。そして細胞を再構築。全ての器官と組織を再生できる。
回復能力ではなく再生能力
「つまり。戦いじゃ死なないのよ、私はね」
綱手は口元の血を右手の親指で拭った。
だが、人の一生の細胞分裂の回数は決まっている。それを早めるのは自ら寿命を縮めるのと同意である。シズネはそれを危惧したのだ。
綱手は先程付けた血を自分の左腕に付ける。その動きに気付いたカブトが大蛇丸の名を呼ぶ。三忍はそれぞれ同じ印を結んだ。
最初に大蛇丸が大蛇を口寄せした場所に大きな生き物が三体現れる。
大蝦蟇に大蛞蝓、それから大蛇。
大蝦蟇のガマブン太は自来也が、大蛞蝓のカツユは綱手が、大蛇のマンダは大蛇丸が。この三人が三忍と呼ばれる由縁である。
自来也とガマブン太の仲はいいものの、大蛇丸のマンダの性格は凶暴である。
それに対し綱手に忠実なカツユ。カツユは綱手の命令によりナルセの体をシズネの元へと運ぶ。そしてここから離れるようにとシズネに告げた。
「大蛇丸、おめぇは悪に染まり過ぎた。もう同志じゃねぇのォ」
「同志?ククク、薄ら寒い」
「三忍と呼ばれるのも今日限りだ!」
一陣の風が吹く。
そこから三人による強烈な戦いが幕を開けた。
三竦みの戦い
(かつての同志との決別)
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