星の瞬き | ナノ

  駒集め


水槽がたくさん並ぶ研究室。そこにオレは向かった。

一つの水槽の前で立ち止まり、背負っていた刀で一刀両断する。溢れ出した水は水溜りを作り上げ、それを見たオレは刀を背に戻す。


「なんだナルセか」


水の中からぬっと顔を出した水色の髪の青年、水月。


「って全裸かよ!露出狂か何かか!?」

「仕方ないだろ、このままの状態で閉じ込められたんだから」


そう言って水月は水の中から這い出ようとする。


「ストーップ!着る物持って来てるからそれ着ろ!」

「はァ?大袈裟だな。君も男だろ?」

「オレは花も恥じらう乙女だよ!!」


服を投げつけオレは後ろを向く。嫁に行く前に男の裸なんか見れるかってんだ!


え、うそ…とか水月が言ってやがるが無視無視。前からよくあったんだが、大蛇丸が次の器として連れてきたからオレを男と勘違いしてるやつらが大勢いやがる。オレはそんなに男顔なのか?え、そうなのか!?


「君がここに来たってことは大蛇丸は死んだんだ」


水月は着替えをしながらオレに尋ねる。オレは後ろを向いたままその問いに答える。


「うんにゃ、あいつはピンピンしてるぜ」

「じゃなんで来たのさ!?」

「オレがあいつの上についたから、っていうのが一番簡潔かな?」


どうやら着替えが終わったようなので水月に向き直る。驚いたり慌てたり唖然としたり、忙しい奴だな


「ま、それについてはゆくゆく説明するよ。ってことでお前にはオレを手伝ってほしいんだ」

「…大蛇丸が君の下についたからってボクもそうとは限らないよ」


水月はピリピリとした殺気をオレに向けた。オレは顎をしゃくり、暫くの間佇む。


「……なんてね、冗談。大蛇丸が従うくらいだ。ボクが敵うわけがない」

「物分りがいいじゃないか」


オレがそう言えば肩を竦める。了承、ということかな

オレは背負っていた刀を地面に下ろす。水月は刀ということで興味深そうに観察している。その刀の長さは再不斬のものと同じくらい。太さはその半分ほど。


「これはちょっとした贈り物さ。首切り包丁は再不斬が持っているからね。これには面白い仕組みがあってな、こんなふうにチャクラを注ぎ込むと…」


刀にチャクラを込めて振るうと、刀は蛇のようにうねって水月が入っていた水槽を粉々にする。水月はヒューと口笛を吹いた。


「変形する刀…ボクにぴったりじゃないか」

「フフン、気に入ってもらえてなにより。さて、あと二人会わなくちゃいけない人がいる。さっさと行こう」

「ヘイヘイ」


*****


「会わなくちゃいけない二人って一体誰さ?」


ただ今その二人に会うためにアジトへ向かっている最中。長い道のりをずっと歩いてきた。ほんと、電車とかないわけ?


「北アジトの重吾と南アジトの香燐だな」


そう答えればえぇっと嫌そうに返された。


「何?」

「いやね…好きじゃないからさ…アイツら。仲良くできないなぁ…」

「と言ってる間に南アジト到着」


早っ!とか突っ込んだ水月などは見てない。水月のお荷物の重たーい首切り包丁は軽ーい変形する刀に変わったからな。そんなに時間はかからなかった。


アジトに入れば囚人達の呻き声が廊下に響く。おおぅ、ある意味ホラー

囚人達の熱烈な視線を感じながら歩いていると、ある人影が目の前に立ち塞がった。


「お前らか…」


長い赤髪に眼鏡、それから短パン。この女の子こそが会いたがっていた香燐である。


「ここに何の用だ?」

「ナルセが君に話があるんだってさ。立ち話もなんだから別部屋に案内してくれないかな?久しぶりに歩いたらヘトヘトでね」

「フン…」


オレの代わりに水月が見事に代弁してくれる。香燐は軽くあしらって部屋に案内してくれた。


「で、香燐にあることに協力して欲しいんだ。ついて来てくれるか?」

「はあ!?何でお前なんかに?ウチはここを任されんだよ!!」


ソファに座り、本当に極々必要なことだけを伝えれば、頓狂な声を上げて反論される。


「うん、その君に任せている大蛇丸はオレの部下になったんだ。問題ないよね?」

「捕まえてる奴らはどうすんだよ!?」

「…別にもう必要なくね?水月、ここの人達を解放してきて」

「ハイハイ、わかりました」


香燐はその意外すぎる言葉に驚き、水月は重い腰を上げた。うむ、乗り気ではないようだが中々使えるじゃないか。


「勝手なことすんじゃねーよ!」

「勝手だけどこれで君はここでの役目はなくなったよね?どうすんの?」

「お断りだね!大体アンタについていく義理はないだろ!!」


ハァ…やっぱりダメだったか。サスケじゃないとダメってことね。て言ってもそう簡単にいくとは思っていなかってけど。


「そっか…。じゃあ他の誰かを当たるよ」


オレがそう言えば水月が出て行った扉に香燐は近付いて行く。解放された囚人達を連れ戻しに行くのかと思ったのだが…、ガチャリと後ろ手で鍵をかけた。


「行くV」


急変した態度に疑問を抱く。香燐はオレに歩み寄り、眼鏡を外してすり寄ってくる。


「ナルセが〜どうしてもって言うならぁ…ついて行ってやるよぉ」


かなり体を密着させて、猫なで声で囁いた。

…アレ?おかしいな。このイベントは香燐がサスケに惚れていることが条件で発生するんじゃなかったのか?


そんなナルセの疑問に答えるように香燐は昔を回想する。


あれは木ノ葉での中忍試験第二の試験の時だった。ウチは仲間と逸れて一人森を彷徨っていた。


「ねえ!皆どこ!?」


何度叫んでも仲間達は現れなかった。

ウチが仲間の名前を呼んでいる内に目の前にはいつの間にやら巨大な熊が現れていた。自分は戦える部類の人間じゃない。


「(イヤだ、怖い……このままじゃ死んでしまう…。まだ死にたくない!)」


懸命に足を動かして逃げ回り続けた。


「ガウッ!!」


襲い掛かってくる熊から逃げようとした時、木の幹に引っかかってしまった。


絶体絶命


その四文字がウチの頭に浮かんだ時だった。


「桜花衝中ぐらいの威力ぅぅう!!」


金髪のウチと同じくらいの子が、変な掛け声と共に助けてくれた。

そんなふざけたもので倒せるものか…と思ったのにそれは予想以上すぎる威力だった。熊は殴り飛ばされていた。

熊は吹っ飛んでいって今度はその子がウチの前に立ち塞がった。一度は危機を脱しても、二度目があるんだと思った。自分はここで終わるんだ。そう思った。けど、実際はそうじゃなかった。


「君、大丈夫?」


しゃがんでそう聞いてくれた。その声は優しすぎるものだった。


「(め、眼鏡!)」

「あー、地の書かぁ…オレらも地の書なんだよね。君、一人でいると危ないよ?早く仲間と合流した方がいいってば」


眼鏡を探り当ててかけると、視界が一気にクリアになった。

そして、青い目を細めたその子の笑顔に一瞬で虜になった。




がしかし。当のナルセは中忍試験の際いかんせん色々なことが起こったため香燐のことはよく覚えていなかった。


「…少し離れなよ」

「ねェ…どうせならウチとナルセだけでいいんじゃない?水月なんか要らないだろ…アレ」


そう言い切った瞬間扉が音を立てて破壊された。それに気付いた香燐は瞬時にオレから離れる。


「さあ、行こうかナルセ。香燐はダメだったようだしね」

「いや、大丈夫だって」

「だ…誰が良いつった!ウチはたまっ…たまたまウチもその用事を済まさなきゃいけないだけだった…済ますだけで…!えっと…!」


おおぅ…物凄いツンデレ、というか裏表激しい。水月もどうやら理解しているよう。アイコンタクトで確認し合う。

で、なんでオレにこのイベントが発生してるんだ?


*****


「さて、あと一人だね」

「他にもいるのかよ」

「まあね、重吾「なにィ…重吾だと!あんな奴を仲間にすんのかァ!?」


水月が言い終わる前に香燐が叫んだ。それにむっとした水月が喧嘩を吹っ掛ける。


「はーい、そう言う間に北アジト到着ー」

「「早っ!」」


どこぞであった展開だなと水月は思った。

目の前にはでかいアジト。倒れてる人影。遠目でもわかる暴れまわる囚人達。


「あっれー?何でこんなことになってるんだ?」


実は南アジトから逃げ出した囚人達が勘違いして、大蛇丸が死んだとデマを流したせいで暴れまわっているのだがそんなことはナルセは知らない。

その時、崖から一人の囚人が飛び降りてきた。


「お前は…確か」


囚人がぼそりと呟いたが、それも途切れた。ナルセが一瞬で囚人の首を跳ね飛ばしたからだ。向かって来るやつに容赦はいらない。


「うわっ、エグイ…」

「はいはーい、行きますよー」


水月の呟きは無視してオレはバスガイドのように陽気に先に進む。

アジトの中は呪印を解放している囚人で一杯だった。しかし雑魚を相手にする時間はないのでばったばったと薙ぎ倒していく。


まあそこからもいろいろあってな。香燐が嘘吐いて水月と別れ別れになったり、それにキレた水月が喧嘩したり…。


「でさあ、ついて来てくれる?」

「お前ら一体何なんだよ!?俺に構うなよ!」


檻の中に引きこもっている巨漢。びくびくと震えている。彼こそオレが探していた重吾。イヤー、にしてもここまで嫌がるとは…


「いや、申し訳ないんだけどね?オレについて来てほしいんだよ」

「君麻呂がいないなら出ない!」


な、なんつー駄々っ子!駄々っ子を説得することほど面倒なことはないぞ!


「その君麻呂を手伝って欲しくてこうして訪ねたわけなんだよね」

「君麻呂を…?なら行くよ」

「「決断が早いっ!」」


あ、よかったー。最初から君磨呂の名前を出せばよかったんだな。

重吾は先ほどまでとはうってかわりあっさりと檻の外へと出て来る。


「よかったよかった。この二人はごねまくったからねー」

「重吾があっさりし過ぎるんだよ!」


え?この二人と違って下りが短いって?んなアホな。重吾が素直でいてくれたおかげさ。



チェックメイトのコールはまだ先
(手駒は多い方がいい)


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