お湯を注いで５分。さらに、お湯を切ってできあがり。
　蓋を開けると、麺の代わりに男が立っていた。
「どんなお悩みも解決！ インスタントヒーローここに見参！」
　パタン、と何も見なかったことする。
「あ、開けてください！ ちゃんとお悩み解決しますから！」
　蓋を叩く音に少し悪く思い開けてしまった。

カップにお湯を入れて３分待つ。蓋を開けると、底に小さな女の子がいた。
「助けを求める声にどこまでも！ インスタントヒロイン見参よ！」
パチンと星でも飛びそうなウインクをし、カップを登り始めた。
「いや、お呼びじゃないんで」
蓋を閉めるとわんわんと泣かれたのでしかたなく蓋を開けた。

「ジューンブライドって幸せになるのかしら」
「迷信よ、そんなの」
「そうなの？」
「そうよ」
「幸せになりたいのに」
「じゃあ、私が幸せにしてあげる」
「ジューンブライドは迷信なんでしょ？」
「女同士なら大丈夫よ、きっと」
「絶対、じゃないのね」
「絶対、になるように幸せになるのよ」
「いいわね」

「案外、弱いのね」
「別に、魔力があるとかじゃないからね」
「もう残り少ないわよ」
「知ってる。君はどうするんだい？ 助けてくれないんだろ？」
「そうね、ただのお姫様だもの。回復なんてできないわ。ただ死ぬだけ」
「勇者に殺されて？」
「ええ」
「それはいやだなあ。せめて、僕に殺されてよ」

「私が死なないと世界は終わるわ」
「そう、じゃあ、死になよ」
「ひどいわね。勇者のくせに」
「僕は勇者より魔王になりたかったからね。ひどいよ」
「じゃあ、私を攫ってみたら？」
「いいね、魔王っぽくてかっこいい」
「遠くに逃げましょう。誰も来ない所に」
こうして勇者は魔王になる。

「明日、死んじゃうとしたらどうする？」
「そうねえ……。アナタと買い物に行きたいわ」
「いいわね、それ。洋服買ったり、お菓子食べたり」
「お喋りしたり、遊んだり」
「やる？」
「やりましょう」
「勇者と魔王なんてきっとわからないわよね」
「そもそも女同士だなんて思ってないわ」
「楽しみね」

「仮定の話をしよう。もし、明日どちらかが死ななければ世界が終わるとしたらどうする？」
「どうするって、最後まで一緒に過ごすさ」
「どうしても片方が死ななければいけないのに？」
「世界なんか知らないね。魔王だから。勇者の君といられれば十分さ。悪役をかって出るよ」
「魔王っぽくていいね」

「そんなに本を積んでどうするんだい？」
「どうするって？」
「具体的な理由とか？」
「本に潰されるためだよ」
「だから、本棚にしまわないのかい？」
「ああ、本に潰されるのが一番の幸せだからね」

　濃い青に白と桜がよく映えていた。
「風邪引くよ」
　死んだように川に浮かぶ彼女へ声をかけた。沈んでしまいそうで、沈まない。
「大丈夫、もうちょっとだけ」
　何も言わずに背を向ける。もうちょっと見なかったことにすれば、彼女は少し長く生きていられるから。

「もっともっと」とねだると、欲しい物はどんどん離れていった。
掴もうと手を伸ばすと、割れて消えてしまった。
どうやら、欲しい物は割れやすいらしい。取扱注意、それくらいシールで貼ってくれればいいのに。
でも、どうせ手に入らないものは手に入らない。