「ああ、やっぱりアンタだったんだ」
『俺は、アンタが大っ嫌いなんだよ………っ!』
あの手合わせから四日。
あれ以来、加州とはまともに話してはいない。
ばったり廊下で会っても、まるで見えていないかのようにしてすれ違うだけ。
以前は目が合えば睨み合いが続いたが、それすらもなくなってしまった。
審神者もこの事態は予想していなかったらしく、しばらく加州と曉を一緒の部隊に入れないようにしていた、が。
「何、これ」
目の前にあるのは、部隊の隊員表。
第一部隊から第四部隊まであるその表の第二部隊の欄には、一番上には薬研藤四郎の文字。
そして次にに加州清光。
一番最後の段には、なぜか曉という文字が書かれていた。
「あー、オレの厳正なるあみだくじの結果、このようなことになりました。じゃ、今日も適当に頑張れよ。以上」
めんどくさそうに頭をかきながら説明をする審神者に、一同が唖然とする。
なんか、今日の第二部隊ヤバイ。
明らかに悪態をつく大太刀と打刀、やれやれと眉間を押さえる短刀。
完全に巻き込まれるであろう薬研を哀れみの目で見ながら、皆こう思った。
今日は手入れ部屋の掃除でもしておこうかな。
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「痛った……」
未だに痛みが残る頭を押さえて、曉はむくりと起き上がった。
数刻前。
突然歴史修正主義者が現れ、薬研率いる第二部隊は不利な状況で戦った。
が、ここでまたしても、加州と曉が互いに足を引っ張り合ったのだ。
言い合いをしているせいかいつもより動きが鈍い二人に、歴史修正主義者が忍び寄る。
隊長を任せられた薬研が二人に声をかけるが、もう遅い。
後ろから忍び寄った歴史修正主義者は、二人を崖の下へと落とした。
それからどうなったのか、曉は覚えていない。
敵の数は少なかったし、薬研一人でも倒せるだろう。
加州は……別にどうだっていいや。
「っていうか、わざわざ落とすことないじゃない……」
「曉!」
崖の上から、薬研の声がした。
近づいてみると、薬研が崖から顔を覗かせている。
「薬研藤四郎!」
「曉!今から降りられる場所探してそっち行くから、加州の旦那とそこで待っててくれ!絶対動くなよ!」
「い、言われなくとも、動きなんてしないわよ。子供じゃないんだし!」
そう言うと、薬研の姿は見えなくなる。
しばらくそこで待っていると、すぐ近くの茂みがガサガサと揺れた。
「ああ、やっぱりアンタだったんだ」
身構える曉の前に現れたのは、紛れもない加州清光。
加州は曉の近くまで来ると、木に寄りかかって座った。
「……!加州清光、あんた、腕………!」
加州の腕から流れる赤い液体を見て、曉が駆け寄る。
曉が腕に触れても、何も反応しない、否、反応する気力もなかった。
落ちる際、運悪く尖った枝に引っ掛かってしまったらしい。
「傷は深くないっぽいけど……私、専門的な知識ないし……」
「あーいいよもう。うるさいからあっち行ってて」
強がってはいるが、顔は苦しそうだ。
片方の腕で怪我をした腕を押さえ、空を見上げる。
「……こんなにボロボロじゃあ…愛されっこないよな」
曉の手が、止まった。
加州の弱気なところを見るのは、曉にとっては初めてのことだ。
いつも自信を持って先陣を切り、曉には悪態しかつかなかった加州が、まさかこんな面を持っていようとは。
すくりと曉は立ち上がると、加州に背を向ける。
「た、確かに、そんな体じゃ歴史修正主義者とは戦えないけど…………………………私は、あんたが羨ましい」
思いがけない言葉に、加州が目を丸くする。
「一番最初に主に呼び出されて、他のみんなと、一番長く一緒に居て、大和守安定みたいな、戦友もいて……………私にはないものを持ってるあんたが、とても羨ましい」
私には、そんな刀はいなかったから、と曉が言う。
「つ、つまり、私が何を言いたいのかっていうのは……その、私にもあんたにも、お互いにいいなと思えるところがあって……えっと、あ、別にこれは、あんたの慰めとか、そんなんじゃないから!勘違いだけはしないように!」
真っ赤な顔で否定をする曉の矛盾に、加州は笑いを堪えきれずに吹き出した。
「な、何笑ってんのよ!」という声を無視し、加州は笑う。
こんなに笑ったのは、いつぶりだっただろうか。
涙が出たのは、笑いすぎたからに決まっている。
「あ、あの、キツいこと言って、ゴメ」
「はあ?何しおらしくなっちゃってんの。大人しくしてたら可愛くできるとでも思った?残念お前には一生無理だから諦めた方がいいよ」
この後、二人の言い合いは薬研が迎えに来るまで続いた。
いつの間にやら、曉と言い合いをするこの瞬間が楽しくて仕方がなくなっていたようだ。
今までわざと曉が怒るようなことを言ってしまっていたのは、きっと、ずっと前から、