刹那 | ナノ


「…あら、そうなの」






「あ、こんなとこにいたわけ?相変わらず可愛いげがないよね。みんな宴で盛り上がってんのに」
「一言余計よ、加州清光。珍しいわね。あなたから私に会いに来るなんて」
「はあ? 意味わかんない。俺がわざわざアンタなんかに会いに来るわけないでしょ。アンタってホント馬鹿だよね」
「…あら、そうなの」

曉の一言に、加州はそっぽを向く。心なしか、若干頬が赤く見えた。

「……ねえ、アンタ。アンタって、その……兄弟刀とかって、いるの?」
「いるけど……一体どうしたのよ、加州清光。あなた、今日ちょっと変よ」
「うわ、アンタに変って言われるとか最悪なんだけど」
「あなた……今度手合わせの時は覚悟しなさいよ……!」

顔を曉の方へ向けて一息つくと、「どんな奴?」と聞いた。
曉はしばらく考え込むと、「そうね……」と口を開いた。

「すごく、綺麗なお方よ。刀としても優れていて、私なんか足元にも及ばないわ」

目を伏せる曉に、加州は目を奪われる。
……綺麗なら、アンタの方が。
そう言いかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。
何考えてんだよ、俺は!
思い出した瞬間一気に顔に熱が集まり、髪をくしゃりと握る。

「な、何やってるのよ……やっぱり今日ちょっと変よ。いきなり兄弟なんて聞いてきて」
「別にっ! 今日、主に妹がいるって聞いて、気になっただけ!」
「……主様、妹なんていたの?」
「ああ、アンタは知らないんだっけ」

この本丸の審神者には、一人の妹がいた。
だが生まれながらにして重い病を患っていて、それ故か大層溺愛したらしい。審神者という職についたのも、妹の病気の治療費を稼ぐためだ。
だが、情報漏洩阻止のため、審神者たちは政府の許可がない限り本丸から出ることはできない。そしてその許可も、よっぽどのことがない限り出ないと言っていい。
現代に残してきた妹が気がかりで、今でもたまに思いふけっている、と加州は言う。

「妹、ね……そう、通りで……」

審神者の年齢は、少なくとも二十は越えている。だとしたら、今頃その妹は曉と同じくらいの外見になっているかもしれない。
審神者が曉に過保護になるのはそのせいか。

「……って、あなたは結局何しに来たの?」
「……っ! いや、それは……えーっと……」

曉に見つめられ、加州はビクッと肩を跳ねあげる。
しどろもどろになりながらも曉から視線を移し、すぐ近くの部屋へSOSを出した。














早く告白しろ馬鹿!
声が出せる状況なら、皆それぞれそう叫んだだろう。審神者を始めとした、大和守、和泉守、堀川、鶴丸は襖をほんの少し開けて加州と曉の様子を見守っていた。
いつもは曉にズケズケと物言うくせに、いざとなると照れて話せなくなってしまう。加州の悪い癖だ。

「何なの? 何で言わないの? 曉が好きですってさ。女々しすぎない?」
「馬鹿、聞こえるだろ、大和守」

和泉守に小声で制され、大和守は黙る。
その時、やっと決心したのか加州が口を開いた。

「……俺さ、アンタのこと―――」

その時加州の言葉を遮って、本丸全体に大きな衝撃が伝わった。
何事かと、曉と加州は立ち上がる。他の皆も同じく、部屋から出てきた。

「審神者様! 大変にございます!」
「一体どうしたんだよ、こんのすけ……」
「先ほど、歴史修正主義者が大規模な侵攻を開始しました!」

歴史修正主義者との、全面戦争です!

崩落が、始まった。
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