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夢を、見ていた。
何もない、真っ暗なところで寝ている夢。
そこに、リズが話しかけてくる夢。
「怖いでしょ?辛いでしょ?憑魔も人間も。アリアよりも大きい、わけのわからないものと毎日戦うんだ」
リズはそう言って、アリアの頭をそっと撫でた。
「変わるよ。アリアの怖いもの、嫌なもの、辛いこと、全部ボクが変わってあげる。待ってて、アリア。ボクが、アリアにとって害になるもの、全部消してあげるからーーー」
眠りに落ちた少女の目には、涙がたまっていた。
「あ、気がついた?」
目が覚めた時にあったのは、スレイや天族達の顔。
少し違和感があったが、何かはよくわからなかった。
「調子はどうですか?」
「………ん、グッジョブ」
ライラの気遣う声にいつもと変わらず、眠そうに目をこすりながら答える。
ベッドから降りたその時、
「待ちなさい」
エドナに傘を向けられ、止められる。
「アナタ、アリアはどうしたの」
「エドナ、冗談はほどほどに……」
「じゃあ、なぜこの子は普通に天族であるワタシたちと会話ができているの?スレイでさえ、まだ霊応力がマヒしているのに」
そう、スレイは今、あの憑魔ーーー災禍の顕主の領域のせいで、霊応力が一時的にマヒしている。
それはあの場にいたアリアも、本来ならば同じはずだ。
しかし、アリアはライラの問いかけに答えた。
それは、アリアがアリア自身ではないことの証明だ。
「……スレイ。リズと話したいから、部屋、出てもらっていい?」
「え?うん、わかった」
スレイはそう言うと、何も聞かずに出て行った。
「ほーんと、なんで気づいちゃうかな−、そこ。せっかく目の色も変えてたのに」
「そんなことはいい。アリアはどうしたんだ、リズ」
「別にー?ただ最近ちょっとアリアの怖いものが増えてきたから、それが全部無くなるまで、眠ってもらっただけ」
笑顔で語るリズに、ミクリオの表情が曇る。
「……それは、アリアの本心なのか」
「知らなーい。ボクはただ、アリアを守れればいいんだ。そこに、アリアの気持ちなんて関係ない」
その言葉が、ミクリオの気に触れた。
ミクリオにとってアリアは、しばらくの間共に戦ってきた大切な仲間だ。
その仲間を、本人の意思とは関係なく封じられて、黙っていられるわけがない。
「リズ………君はそうやって、いつまでもアリアを閉じ込めているつもりか」
「だって、仕方ないでしょ?アリアの怖いものは、ボクがなんとかしなくちゃ」
「それじゃ根本的な解決にならないだろう!」
「…っ!あーもう、うるさいうるさい!何も知らないくせに!」
「ああそうさ!確かに僕は何も知らない。けど何もできず、外との関わりが無い世界にずっといて、それで本当に彼女が満足するとおもうか!?」
「……………………っ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」
ドンッ、と大きな音を立てて、リズが一歩前に出る。
瞳には怒りの色が見え、揺れていた。
「アリアと一緒にいたのはボク!アリアを一番知ってるのもボク!それを、つい最近出てきたばっかりの奴が、偉そうに言うな!」
リズはそう言うと、部屋を飛び出した。
途中スレイにぶつかりそうになっても、構わず通り過ぎる。
本人さえも、何処へ向かっているのかわからなくなっていた。
「……また盛大にやったわね、ミボ」
「ミクリオさん……」
「…………くそっ」
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