55


「スレイ………どこ?」

一人の少女が、戦場を駆け回っていた。
マーリンドの問題が解決したあと、ローランス帝国が攻めてきたとの報告があった。
そこでマーリンドの人々と共に避難したはいいものの、レディレイクへと戻ったアリーシャを人質に取られ、無理矢理戦場へと出されてしまった。
戦場は、穢れが最も発生しやすい場所だ。
右を向いても左を向いても、居るのは憑魔ばかり。
名のある戦士や師団長でさえも、憑魔と化していた。
キャンプ地に居る数少ない兵士も、いつ憑魔になるかわからない。
アリアが走っているのは、そんな場所だ。

〈もー、どこ行ったんだよあの天然!アリアをこんな場所に置いてくなんて!〉

頭の内でぎゃあぎゃあと騒ぐリズを無視し、アリアはスレイを探して走る。
何せ、四方八方敵に囲まれた戦場だ。
気づかないうちにはぐれてしまっても、不思議ではない。
するとその時、いきなり空気が変わった。
ただならぬ圧力、そして力。
先程よりも穢れが酷くなっている。
これは、あの霊峰で体験したーーー。

「………スレイ!」

丘を上れば、スレイが憑魔に詰め寄られている姿が見えた。
後ろにはライラが倒れていて、そのライラを庇うようにして立っている。

「………ぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」

アリアはリズへと変わり、持っていた大鎌を憑魔目掛けて振り下ろした。
が、その憑魔は片手で大鎌を押さえるだけ。
まるで歯が立たない。
シルエットは人間だが、頭は獅子だ。

「……まさか、従士まで居たとはな」
「はあ!?ホント意味不明。キミの領域のせいでアリアが苦しんでるんだからさ、さっさと死んでよ」

カチカチと大鎌が音を出す。
ふと、一瞬憑魔の力が弱まった。
これを機にリズは押しきろうと力を入れたが、

「だが、まだ甘い」

憑魔のもう片方の腕で、吹き飛ばされてしまった。
いきなりのことで受け身に失敗し、頭を強く打ってしまう。

「リズ!」

すぐ近くで、スレイが叫ぶ声が聞こえる。
それでも、リズの意識ははっきりとしていた。
ただ、体が全く動かない。

〈やっば。ボク、アリアの意識を乗っ取ってるだけだから、体が動かないと……〉

瞼が、ゆっくりと下がってゆく。

〈ああもう、ホントうるさいなあ、うちの導師様は〉

声も、出なかった。




|

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -