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「……ってことがあって、現在に至る」

夜、アリアとアリーシャは二人で、宿の外のベンチに座って話していた。
今の時期、外に出ては少し寒い気もするが、二人だけで話したいときにはここが最適だ。
夜は誰も外に出歩かないし、いてもすぐにわかる。

「それで、アリアはここに来れたのか。アリアは、元々天族の方々が見えているのだったな」
「ま、ね。穢れとかは完全アウトだったけど」

二人の間に、気まずい空気が流れる。
先に話をしないかと誘ってきたのは、アリーシャの方だった。
アリーシャは最初、いろんなことを聞いてきた。
スレイや、ミクリオとの関係。
どうやってマーリンドまで来たのか。
なぜ同行することになったのか。
アリアは、それにひとつずつ答えていった。
……恐らく、ゆっくり話をするのはこれが最初で最後なのだろうと判断したからだ。

「……意思は、固まったの?」
「……ああ。私は、マーリンドに残る」

うつむいて話すアリーシャに、アリアは「そう」と顔を背ける。
正直このアリーシャ・ディフダという人間は、アリアの苦手なタイプの人間だ。
理想を追い求めて、その理想を現実にまで無理矢理引き込もうとする。
アリアのアリーシャに対する第一印象は、決して良いものではなかった。
その時、リズが代わってくれと声をかける。
アリアはそれに応えると、ゆっくりと目を閉じた。

「……アリーシャ。君がレディレイクに戻って動くとき、調べてほしいことがある」
「!…リズ、か」
「ちょっと、七年前にレディレイクの近くで起こった事件について調べてもらいたくて。クアモーネ惨殺事件ってやつなんだけどさ」

「これ、アリアには秘密ね」とリズが付け足すと、数拍おいてアリーシャが首を縦に振った。
よろしく、と言い残すと、リズはアリアへと変わる。
いつも通り、眠そうにしているアリアの顔があった。

「……アリア。この際だから聞かせてくれ。君は……一体何者なんだ?」

アリアの表情に変化はない。
ただ、アリーシャが深刻に尋ねた。

「…天族と人間。この二つの存在を掛け合わせたもの。それがリズとあたし」
「まさかっ、天族の方の血を引いているのか!?」

アリーシャが詰め寄るが、アリアは首を横に振った。

「人間の体に、強制的に天族を共鳴させただけ。血は繋がってないし、元々赤の他人」

人間であるアリアの体に、リズの精神と天族としての力だけを入れ、天族の体は他の場所で保存する。
そのような実験が行われている場所があると、アリアは言った。
その場所を教えてくれ、とアリーシャは言うが、アリアはきっぱりと断った。
研究所の場所については、研究所の最重要機密のひとつだ。

「天族の力を受け継いだから、人間でありながらも天響術を使える。ただ、それだけ。じゃ、あたしもう行くから」
「あ……」

アリアは立ち上がると、スタスタと宿の中へ帰っていった。













「ーーーなるほど、ね」


影で聞いていた者がいたことなど知らずに。




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