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「よう、導師。街の治安は見ての通りだ」

無事加護領域を展開し、憑魔の侵入を防げたせいか、街の治安はだいぶ良くなっていた。
街の穢れは完全に消え、疫病も一週間ほどで収まるだろう。
スレイの、ここでするべきことは果たしたわけだ。
ルーカスに街の警備の終了を伝えると、ライラに宿で休むよう勧められた。
南西の憑魔との戦闘で、かなり体力を消耗している。
このままだと、スレイが倒れかねない。

「今日はゆっくり休もう」
「だね。加護領域は展開されたし」

宿の部屋に入ると、アリアは真っ先にベッドに寝っ転がる。
ちなみに、ここはスレイの部屋のはずだ。
が、アリアはそんなことはお構いなしにベッドに寝っ転がる。
スレイも、特に気にした様子はない。
お互いが別に気にしている様子もないので、天族たちはあえてスルーすることにした。
もちろん、アリーシャもだ。

「明日になったら立つのか?マーリンドを」
「……うん。そのつもり。そういえば、どうやってアリアはここまで来たの?あのとき、橋はまだかかってなかったよね?」
「……それは」
「なぜだ?」

アリアが話そうとするが、とある女性の声で遮られる。
窓から入ってきたのは、風の骨の暗殺者。
スレイたちを襲ってきた人物だ。
スレイたちは身構えるが、なぜか彼女には戦う意思が感じられない。
両者ともに黙っていると、風と共にデゼルが現れた。
暗殺者の隣に立ち、スレイたちを見ている。

「やはりこの方に憑いてーーー」
「なぜマーリンドに留まらない?」

一歩前に出て話すデゼルに、ミクリオが「突然なんなんだ!」と反発する。
あまり、彼に良い印象は抱いていないらしい。
ふと、アリーシャは気がついた。
暗殺者が窓から入ってきたときからそうだったが、なぜアリアだけ身構えていない?
前回暗殺者に襲われたときは、アリアもスレイと同時に身構えていた。
だが、今回は違う。
いくら暗殺者に敵意を感じないからと言っても、自分を襲ってきた相手を見ても動じない、というのはどうだろうか?
先ほどから、アリア一人だけがベッドの上で寝っ転がって暗殺者やデゼルを見ているだけだ。
……何か、裏があるのだろうか?

「ガキは黙れ。導師に聞いているんだ。なぜ街を救った恩と称賛を捨てる?なぜそうまで自分を犠牲にする?」
「ここでできることはやった。他の場所に知りたいことがある。それだけだよ」
「……変わってるな」
「そっちこそ」

デゼルはスレイたちを順番に見たあと、最後にアリアを見た。
目が隠れているので表情や感情は読み取れないが、敵意はない。

「……お前も、せいぜいその腐れ狼と早く別れるんだな」
「……?何のことか知らないけど、目的は果たしたでしょ。これにて貸し借り終了」
「……フン」

アリアがめんどくさそうに片目を開けてデゼルに言うと、鼻を鳴らして暗殺者と共に消えた。
風が吹いて目を開けていられなくなるが、気づいたときにはもう二人の姿はなかった。

「けど、オレ以外にもいるんだな。天族と一緒の人間が」
「暗殺者だけどね」
「あんな奴のことはどうでもいいさ。問題は、僕たちがどうするかだ。行き先は、スレイ?」
「決まってる。ローランス帝国だ」




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