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「ふぅ……これでマーリンドの加護がーーー」

力尽きた憑魔が倒れたあと、スレイが振り返って言う。
ここ、ボールス遺跡はどこに行っても静かで、それがどこか不気味な空気を生み出していた。
スレイが安心して剣をしまったその時、倒したはずの憑魔が再び動き出した。
しかも、先程よりも凶暴になって。

「スレイ!」

スレイを庇って前に出たミクリオとアリーシャが憑魔に吹き飛ばされる。
同時にアリアはとあることに気づいてしまった。

「スレイ、憑魔を!」

アリアがミクリオとアリーシャに駆け寄りながら叫ぶ。
スレイはライラと神衣化し、燃え盛る炎と剣撃と共に、憑魔は消え去った。
ミクリオはすぐに起き上がったが、アリーシャの意識がまだ回復しない。

「見えてないんじゃない、目?」

アリーシャに聞かれないうちに話しておこうと、エドナがスレイに傘を向ける。

「やはり従士契約の反動が……」
「いや……オレがぼうっとしてたから……」
「ヘタしたら死んでたわ。アリーシャもミクリオも」

ーーーやっぱりか。
アリアは一人、納得していた。
スレイから前、イズチでウリボアを狩って生活していたと聞いたことがある。
そんな人間が憑魔を仕留めきれなかったことに気づかないはずがない。
ましてや、導師が。

「僕はいい!アリーシャのために黙ってたんだ。スレイは」
「そうだと思います。ですがーーー」
「限界でしょ?」

エドナに真実を突き立てられ、全員が黙る。
アリーシャが霊応力を養うか、従士契約を破棄しなければ、スレイの目は戻らない。
だが、ここまでずっと人間の世界で育ってきた彼女が、霊応力を反動がなくなるまで養うのは至難の業だ。

「……で、スレイ。あたしの分の反動は?」
「アリア……」

アリーシャで反動が来ている。
いくらアリーシャよりも霊応力が高いと言っても、せいぜい天族が見える程度だ。
特別高いと言うわけではない。
黙ったまま左手を押さえるスレイを見て、アリアは「そう」と呟く。
ーーー左手。
それが、アリアの従士契約の反動だ。
だが、左手全てが使えないと言うわけではない。
感覚が麻痺しているだけで、動かすことはできるらしい。
アリアも、それ以上何も言わなかった。
彼女自身も、悩んでいる。このままスレイたちと一緒に行っていいのか。

「アリーシャ!よかった!」

ちょうどその時、アリーシャが目を覚ました。
ーーーいや、少し前から覚めていた。
となると、今までの会話を全て聞いていたことになる。

「大丈夫だ……私なら」

やはり、彼女は全て知っていた。
ロハンと初めて会ったあのあたりから、何となく感じてはいたのだろう。
自分が、スレイの重荷になっていることに。

「ロハンさんの領域、展開できたようですわね」
「一件落着。帰りましょう」

ライラとエドナがそう言うと、スレイたちは来た道を引き返した。
アリーシャは、ずっと俯いたままだった。




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