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「やっぱり協力してもらえないのかい?」
橋の手前で、ミクリオが確認する。
それはエドナに対して言ったもので、全員の視線がエドナに向かった。
「導師は天族を司り、操る者でしょ?好きにすればいいわ」
「そんなのイヤだ。道具扱いじゃないか。エドナがイヤなら別の方法を考えるよ」
エドナが平然とした様子で好きにすればいいと言うが、スレイが嫌がる。
「どうしても女の子からやらせてって言わせたいのね」
エドナの衝撃的な一言に、全員が驚愕する。
ライラは頬を赤らめ、ミクリオは呆れ、アリアはドン引きをする。
何より、スレイが一番驚いていた。
恐らく、この中で一番の被害者だろう。
「スレイさん!穢れますよ!」
「変なヤツだとわかっていたつもりだったが……」
「……ドン引き」
「何なの?その使い古された反応……もういい。最初から手伝うつもりだったわ」
全てエドナの冗談だったことに気付き、全員が呆れる。
スレイにいたっては呆れるどころか疲労さえ感じていた。
やはり一番の被害者はスレイだ。
「お礼は?」
「ありがとうございますー」
棒読みだ、スレイ。
「…っと、そうだアリア。レディレイクまで、一人で帰れる?」
スレイは進もうとしたが、すぐに立ち止まってアリアに言った。
「………………………?」
「アリア、レディレイクまで送ってほしいって言ってただろ?ここまで一緒に来ちゃったけど、オレたちはマーリンドに行くから、アリアはレディレイクに戻ったほうが……」
「………………………………」
わかってはいた。
スレイは導師で、ライラは主神で、ミクリオとエドナは陪神で、アリーシャは従士で。
そして、そのなかに自分一人だけ一般人で。
導師一行と一般人が一緒にいられないことは、わかってはいたことだ。
「……大丈夫、帰れるよ」
「そっか。なら安心した」
アリアが言うと、スレイは本当に安心したように笑った。
「じゃ、行こっか」
スレイはそう言うと歩き出し、アリーシャのもとへ向かう。
アリアも、天族の三人がついてきていないことを横目で見るが、特に気にしないでスレイのあとを追う。
「……本当に、何もわかってないのね、あの子」
「あの子って?」
「スレイのことよ。たぶんあの様子じゃ、アリアが本当はレディレイクに行っても何もないってこと、知ってて言ってるわよ」
「はい……アリアさんは、恐らく身寄りも、心の支えになる方もいないでしょう。そんな方が単身レディレイクに行って、憑魔にならないと良いのですが」
「アリアは十分強いが……なんだか、後味が悪いな」
天族たちの心配事は、誰にも聞こえはしない。
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