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霊峰から出てフォルクエン丘陵に戻ると、スレイたちの前に一人の暗殺者が現れた。
先程と同じく、風の骨だ。

「君は……頭領って呼ばれてた人だな」
「スレイ」

アリアがスレイを庇うようにして前に立ち、武器を構える。
スレイも剣こそは出していないが、いつでも戦闘に入れる態勢になっていた。
それは、天族の皆も同じく。

「オレは本当に導師なんだ。信じてもらえないかもだけど」
「……本物か偽物かなんて関係ない!」
スレイの必死な訴えも聞かず、暗殺者は襲いかかってきた。
アリアはこのとき確信した。
自分は、この人物とは絶対にわかり合えない、と。

「何者かの加護領域を感じます!」
「こいつ、導師級の霊応力を持っているのか!?」
「ですが、この人は私たちが見えていませんわ!」
「何かしらのカラクリがあるっぽい」
「おしゃべりはここまでね。この子、強いわ」

実際、霊峰で戦った暗殺者とは比べ物にならないくらい強かった。
暗殺術とその隙、それを補う方法、人体の急所……それらを全て理解した上で、体術も組み込ませながら戦っているのだ。
さすがは頭領と言ったところか。
アリアよりも生身での戦闘は上だった。
だが、アリアにはとっておきの秘策がある。

「……リズ、出番」
〈オッケー、アリア〉

そう、リズだ
リズが操るのは雷の天響術。
つまり、天族や天響術が見えていない暗殺者には、死角からダメージを与えることが可能なのだ。

「さーて、ボクの大事なアリアに手を出したってことは……死ぬ覚悟は出来てるってことだよねえ?」

リズはそう言うと、猛スピードで暗殺者に向かって走り、暗殺者のうなじに回し蹴りを叩き込もうとした。
もちろん、第一発目は避けられることがわかっていた。
だからこそリズは回し蹴りという派手で目立つ技を選んだのだ。
ーー暗殺者の後ろを狙っているスレイから意識をそらすために。

「スレイ!」
「わかってる!フォエス=メイマ!」

それは、ライラの真名。
導師が神衣を身にまとうときに必要な、天族の。
完全に背後を取ったスレイが、ライラと神衣をして暗殺者に斬りかかる。
終わった……!
そう確信した。
ーー現実は、そう簡単に造られてはいなかった。
暗殺者は、そのスレイの動きも完全に先読みしていたのだ。

「つ、強い!」
「スレイ、逃げたほうがいい!」
「嫌だね!コイツはアリアに……!」
「いいから来るんだ!」

逃げることを頑なに嫌がるリズを、ミクリオとエドナが無理矢理連れていく。
本人はとても不満そうだ。
ある程度逃げると、

「あれ、追ってこない?」

背後から何も音がしないことに疑問を感じたスレイが、振り返る。
暗殺者はすぐに追おうと走り出したが、力なく地面に倒れてしまった。

「どうやらあれは輿入れしたのではないようですわ。その証拠にあの人に反動が出てしまっている」

だから暗殺者が動けなくなってしまったのか、と一同が納得したとき、突如として風がふいた。
目を開けていられないような風が、一瞬で通り抜ける。
再び目を開けたとき、倒れた暗殺者の隣は、一人の天族の男性が立っていた。
全身黒ずくめで、髪と帽子で目を隠している。

「あれは……デゼルさん!」
「知っているのか?ライラ」
「流浪を好み、最強と詠われた傭兵団を気に入って共に旅をしていたと聞いていますが……」
「知ってる。"風の傭兵団"ってとこでしょ?何度か見たことあるし」
「訳があるんだな。暗殺者と共にいなければならない何かが」

ライラがデゼルという天族について話していると、その天族はいつの間にか暗殺者と共に消えていた。
一体なぜ暗殺者と共に居るのか?
なぜ穢れてはいないのか?
数々の疑問を残して。




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