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「ねえ、あなた、名前は?」

霊峰の坂を下っている最中、エドナがアリアに尋ねてきた。

「………………アリア」
「そう………それで、あなたの内にいる子は?」
「!リズに気付いたのか?」

傘を差して言うエドナに、ミクリオが驚く。
アリアは黙ったままだった。

「わかるわよ、普通。人間の体から天響術が出てるんだもの」
「……?僕は何も感じないが」
「それはあなたの力不足よ、ミボ」

エドナとミクリオだけで会話が進んでいく。
先程から、スレイとライラは黙ったままだ。

〈……スレイ、絶対ライラから聞いてたね、今の話。二人っきりのときにでも話したんじゃない?ほら、地下水路のときとかさ〉
「(…………………………)」

確かに、いつもならこのような話には空気を読まずに入ってくるのがスレイだった。
が、今のスレイはエドナとミクリオの会話を、まるで聞こえていないかのように聞き流している。
不思議と謎の多いライラならともかく、天然の塊であるスレイが会話に入ってこないのは、明らかにおかしい点だ。

「…で?アリアの内の子、名前は?」
「…………めんどいな」

アリアはそう呟くと、目を閉じる。
二、三秒たっただろうか。
再びアリアが目を開けると、瞳の色は真っ赤な深紅に染まっていた。

「ハイハーイ!エドナ様の盛大なファンコールにお応えして、出てきちゃいましたリズちゃんでーす!」
「そう。やっぱりあなただったのね。もう帰っていいわ」
「ひどっ!せっかくボク自ら出てきてあげたっていうのにー!」
「名前を聞いたけど呼んではいないわ。……それで?結局その子にしたの?」

エドナがそう言うと、先程まで一人で騒いでいたリズの動きが止まる。
一瞬、苦虫を噛み潰したような顔になったが、すぐにもとの顔に戻った。

「エドナー?そーゆー話は、また今度にしましょうって。純粋な少年二人に聞かせるような話じゃないよー?」
「………そう。ま、そういうことにしておいてあげるわ」

エドナがリズを置いて先に行く。
リズはその後ろ姿を、複雑な顔で見つめていた。

「………?リズ、さっきの話って」
「あ、聞いちゃう?それ聞いちゃう?いやーミクリオも男の子だねー」
「……って思っていたけど、リズがうるさそうだからやめるよ」
「ハハ、ま、たいした話じゃないよー?あ、でもミクリオ。あまりボクたちを信用しない方がいいよ?いつ後ろからバッサリいくかわからないし」

実際、本当の話だ。
今は研究所から自由命令が出ていても、いつ変わるかわからない。
その変わった任務が、またスレイとミクリオの捕獲かもしれないし、あるいは導師一行の暗殺かもしれない。
どうなるかは、アリアにも、リズにもわからないのだ。

「いきなりなんだ?」
「別にー?あーでも、ミクリオの中の信用ならないランキングにあの変態長髪半裸野郎と並んじゃうのはのは嫌だなー。それだけは」

ザビーダに何の恨みがあるのだろうか。
リズがザビーダの文句ーーーというか半分悪口ーーーを言いながら、スレイのもとのへ小走りで行く。
kこのとき、ミクリオの中ではある確信に近づいていた。




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