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「エドナ!」

坂を下っていくと、エドナが一人で立っていた。
スレイが声をかけると、「これは?」と聞かれる。
彼女が立っていたのは、小さな墓の前だ。
ザビーダに殺され、浄化出来なかった憑魔の。

「あなたが弔ってあげたの?」
「うん。オレにもそれぐらいは出来るから」

スレイが答えると、エドナは「そう」と言って墓を見た。
傘を差しているので表情はわからないが、何かを感じとっているのかもしれない。
スレイが再び名前を呼ぶと、エドナはすぐに振り返った。

「何?いくら危険でもここを離れるつもりはないわよ」
「……なら、一緒にアイゼンを鎮める方法を探しに行こう」
「話したでしょう?方法なんてないわ」
「……本当にそうなのかな。天族も導師もドラゴンも……本当にいたからさ。この世界にはまだ明かされてない伝説がいっぱいある。きっとドラゴンを鎮める方法もどこかに眠ってるんじゃないかな」

スレイの夢のある発言にミクリオは呆れ、アリアは伝説バカ、と呟き、ライラは苦笑いをする。
三者三様の姿に、スレイは少し不満そうだ。
相変わらずエドナはジト目でスレイを見ている。

「それを信じろって言うの?」
「うん。無理かな……?」

ーーーいや、普通に無理でしょ。
アリアはそう思ったが、

「わかったわ、スレイ。一緒に行く」
「え」

エドナの意外な一言に、アリアは目を丸くする。
スレイも、どこか安心したようにホッとして微笑んでいた。

「言っとくけど」
「何?」
「どうしてもここから連れ出したいのなら引っ張ってでも連れて行けば良かったのよ。伝説を追いかけるとか、自分を信じてとか、そんなので女の子を誘うなんて時代錯誤。説得力ゼロ」

エドナの容赦のない言葉の数々が、スレイの胸にグサリと刺さる。
さらにミクリオの追い打ちも加わり、なぜだかスレイが可哀想になってきた。
誰一人として助ける人はいないが。

「さぁ、ライラ。陪神契約を」
「ちょっと待って!そこまでは……」
「誘ったのはそっちじゃないかしら?」
「ここを離れるなら、新しい器が必要。こんな災厄の時代じゃ、すぐに穢れに侵されてしまうし」
「そうよ。そこまで考えなかったのかしら?バカね、ホントに。さ、ライラ」
「なんでこの二人はこんなに息ぴったりなんだ……」

エドナの言葉に、アリアも加勢する。
無表情だが、どこか楽しそうだ。

「毅然たる顕れに生まれし者よ。今、契りを交わし、我が煌々たる猛り、清浄へ至る輝きの一助とならん。汝、承諾の意志あらば其の名を告げん」
「『ハクディム=ユーバ』」

エドナはそう言うと、スレイの内へ入った。
どうやら、これがエドナの真名らしい。
スレイの内から出てくると、エドナは少し離れた場所に傘を立て、こちらからは見えないようにした。
……なにやら、絶対に聞こえるはずのない金属音が聞こえてきて、一瞬耳を疑ったが、聞き間違いなどではないらしい。
その証拠に、スレイやミクリオにもはっきりと聞こえていた。
何か、別の次元に繋がっているポケットでもあるのだろうか。

「これ、使って」

エドナが別次元ポケットーーーアリアが勝手に命名したーーーから取り出してきたのは、一つの籠手だった。
金属製で、かなり古そうだ。

「エドナさん……器となりうる神器をもってたんですの?」
「……やられたね。スレイ」
「ホントホントー」
「はは……女心は難しい……」
「さ、連れて行って。世界に」
「うん。よろしく、エドナ!」




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