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ウーノを聖堂で祀った後、スレイはバルトロ大臣が呼んでいるとの連絡を受け、レディレイクの城へ向かった。
が、
「ここは、ムリ。入っちゃダメ」
城の前でアリアが立ち止まって言う。
「どうしてだ?」
「とにかく、ダメ」
アリーシャが問うが、アリアは理由を言おうとしない。
その姿は、何かしらの理由があって入ってはいけないように感じられた。
「わかった。じゃあ、アリアは先に宿に戻ってて?オレたちで、バルトロさんと話してくるから」
スレイはそう言うと、アリアを置いて城の中へ入っていく。
アリアは来た道を引き返すと、宿には戻らず、別の道へと入っていった。
そして、手首に着いているバングルに向かって話しかける。
「……どうしてあたしが入っちゃダメなのか、聞いていい?」
「いやあ、政治に関わる人間っていうのは、穢れに染まりやすいからね。中に入って、俺の大事なアリアちゃんが穢れちゃったら困るからさ」
その声は、前からでも後ろからでもない。
バングルの中から聞こえてきたものだ。
「まあ、この話は置いておいて。前に、他の研究員が、天族と人間を一人ずつ連れてこいってい言ってただろ?アレ、なしになったから。アリアちゃんはこのまま、導師と旅をしてていいよ」
それを聞いてアリアは、疑問符が思い浮かんだ。
今まで、命令が取り消されたことなんて、一度もなかった。
しかも、そのあとはすぐに帰ってこいではなく、自由にしていていいときた。
「じゃあ、そういうことで。愛らしいキューティクルなアリアちゃんのエンジェルボイスをもっと聞き、できれば録音して目覚まし時計のアラームとしてセットし、毎朝起きるたびに『おはよう、アリアちゃん』と言ったら『おはよう、レグルス。今日もいい天気で空が綺麗だね。でも、レグルスの方がもっと綺麗だよ』なんて返してくれるものを開発しーーー」
話の途中で切れてしまった通信機を持ち、レグルスはモニターだらけの部屋に立っていた。
「なんて、冗談なんだけどね。……8:2の割合で本気だけど」
ーーーそれ、どっちが8なんだよ。
この場に人がいたらそうツッコまれそうな台詞だが、反応はない。
それは、今この場に人が誰一人いないことを意味していた。
「天族を人間の同化なんて、二度とさせないよ。あんな思いをするのは、一人で十分だ。安心して、アリアちゃん。君みたいな子は、絶対に増やさないよ」
もちろん、その声を聞いた者も誰一人いなかった。
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