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力尽きた憑魔が倒れると、その姿は憑魔から人の姿になってしまった。
服装から、恐らく天族だろう。
「憑魔が……天族になった!」
「逆ですわ。実体化するほどの憑魔は天族が憑魔化したものなのです。そして完全に憑魔化した天族はこう呼ばれています。『ドラゴン』と」
ドラゴンの存在は、天遺見聞録にも載っている。
だが、そのドラゴンが実は、普段何気なく会話していた天族だと知り、スレイは少し複雑な気持ちになった。
すると、ちょうどそのタイミングで天族が目を覚ます。
「この橋を壊したというのか……私が」
天族が氾濫した川と、崩壊した橋を見て呟く。
憑魔になっていた時期の記憶はないのだろう。
「恥ずかしい限りだ。君たちが浄化してくれなかったらどうなっていたか。感謝する」
「オレたちも、あなたを救えてよかったです」
スレイが言うと、天族はウーノと名乗った。
スレイがウーノに、レディレイクの地の主になってくれるよう頼む。
が、今のレディレイクには穢れが満ち溢れているとでも思ったのだろうか。
ウーノはしばらく悩むが、
「俺……導師様が竜巻を斬ったように見えたよ。こんなこと、信じてもらえないだろうけど……」
「いいじゃねぇか!信じるなら水神の祟りより、導師の奇跡の方が夢があらぁ!」
「こら!導師様と呼ばんか!」
そう言って笑い合う人々を見て、ウーノも決心したようだ。
地の主を引き受けてくれた。
「終わったー?話し合い」
話に一段落がつくと、アリアーーーリズが寄ってきた。
「あ、リズ。アリアは?」
「んー?なんか、さっきの憑魔の最後の一撃喰らっちゃって、今気絶中ー」
「…!君は……」
「!……………………………………………チッ」
リスの顔を見た瞬間ウーノは目を丸くし、一方リズは小さく舌打ちすると、すぐに目線をそらした。
「…今度はその少女なのか」
「うっせ。お前には関係ねーだろ」
いきなりの口の悪さに、スレイたちが驚愕する。
元々口が悪いとは思っていたが、これほどまでに露骨ではなかったからだ。
「…えっと、知り合い?」
「前にちょっとね。じゃ、ボクもう変わるから」
リズはそう言うと、すぐにアリアに変わってしまった。
アリアは一瞬フラつくが、また普段通りに戻っていた。
「……あ、みんな。おっはー」
「今はもう昼過ぎだ」
先程のような、邪険さはもうなくなっていた。
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