29


翌日、スレイが目覚めると隣にはミクリオ、ライラ、アリーシャの三人が側にいた。
どうやらここは、レディレイクの宿屋らしい。

「そっか……また倒れちゃったんだ。ミクリオが?」
「おかげで腰が痛い」
「ふふ、スレイが浮いているように見えてね。宿には手品師だと説明しておいたよ」
「はは……騙すのは苦手なんだけど。そういえば、リズは?」

スレイが、近くにアリアがいないことに気づき、キョロキョロと辺りを見回す。

「リズさんなら、先程アリアさんに戻りましたわ。少し、用事があると言って、今は街に出掛けていますが」
「そっか」














スレイたちが地の主になってくれる天族と、それを祀ってくれそうなブルーノ司祭を探しに、レディレイクの街に出た頃。
アリアは一人で、大勢のゴロツキたちと戦っていた。

「オラオラやっちまえ!」
「相手は女一人だぞ!」
「…………………………………」

研究所への報告をしようと街へ出たが、途中でゴロツキに絡まれてしまい、振り払ったらこのような大きな喧嘩にまで発展してしまった。
いつしか周りには野次馬も出てきてしまい、逃げるに逃げられない。
そして何より、アリアのプライド自身がそれを許さない。
だが、自分が一般人に手を出したらどういうことになるかよくわかっているため、襲いかかってくるゴロツキを、アリアはただ避けるだけ。
それがゴロツキたちの怒りを爆発させる原因にもなっているのだが、そんなことは一切気にしない。

「…………………………………」

どうやって逃げずに、かつ殺さないように手加減をしようか考えているとき、

「アリア!?」

自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り返ってみる。
そこには、寝ていたはずのスレイが立っていた。
アリアが、ゴロツキが、野次馬が、突然の導師の登場に驚きを隠せないでいる。

「…しょうがないな」

仕方なく、手加減をしてゴロツキたちを足止めする作戦に出たアリアは、その場で軽くジャンプをする。
3回、4回、5回、6回目で、アリアの姿は人々の視界から消え、代わりにアリアの目の前にいたゴロツキが、吹き飛ばされていた。
人々が状況を理解出来ずにいるなか、アリアは気にせず流れるような動作で、ゴロツキたちを次々と蹴り飛ばしていく。
肩、腹、背中、ナイフを持っている者は手首を蹴られ、不思議と蹴られたゴロツキは立ち上がって反撃することなく、蹴られた場所を押さえてうずくまっていた。










「あれって……」

その様子を、ロゼは遠くから眺めていた。
アリアが使っていたのは、ロゼと同じ暗殺術。
本来は、二本の短剣を用いて使われるはずだ。
が、アリアは短剣を使わず、人間の急所ギリギリのところに強い打撃を与えて、相手の動きを封じていた。
これは、相当な技術だ。

「……………………………」

この少女は、もしかしたら自分と同じ世界の人間かもしれない。
そんなことを考えながらロゼは、導師に連れられて街の外へ出ていく少女をじっと見つめていた。




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