15


「戻ったな。導師殿。メシの支度出来てるぜ」

宿屋の主人にそう言われ、スレイが嬉しそうに「ありがとう!」と言う。
どうやら宿代はタダにしてもらえるらしく、財布の状態があまり良くない今は、とても嬉しい知らせだった。
アリアとスレイが食事を食べ終わると、主人がアリーシャからの届け物があることを知らせてくれた。
急いでフロントに行く。

「これは……手紙とオレの剣と荷物と……服?」
「隣にある服はまさかまさかのあたしの服だったり?」

白を基調とした、恐らくスレイの分であろう服の隣には、ピンク色のローブが置かれていた。
サイズからして、アリアの分だろう。

「丁度いい。着替えなよ。君、ちょっと臭うぞ」
「はは……そうします」
「そして今の発言にはあたしも含まれているのか激しく問いたい」

スレイとアリアがそう返すと、二人はそれぞれ部屋へ戻り、着替え始めた。
上に服を重ね着するだけという、なんとも簡単な着替えだが。
五分後、着替え終わったスレイとアリアが戻ってきた。
スレイは自慢するように腰に手を当て、アリアは恥ずかしいのか後ろで手を組んでそっぽを向いている。

「どうかな?」

スレイがそう言うと、宿屋の人々は似合うと称賛の声をあげていた。

「レディレイクに伝わる導師のいでたちですわね。よくお似合いですわ」
「馬子にも衣装って言うしね」
「今の発言にはあたしも含まれているのか激しく問いたいパート2」
「素直にうらやましいって言ったら?」

スレイの言葉に対しミクリオは、「絶対言わない」と言って腕を組んだ。
よほどうらやましかったのだろう。

「で、手紙にはなんて?」

ミクリオがそう言うとスレイは、アリーシャの手紙を読み始めた。

「スレイ。突然倒れて驚いた。宿ではよく休めただろうか?

貴殿が私たちの目には見えぬ天族と本当に交流を持っていると理解したとき、

湖の乙女の聖剣を抜いたとき、

あの祭りで暴動を見事に鎮めたとき、

私の胸は、これ以上ないほど高鳴った。

そこで私に浮かんだ言葉は『ありがとう』だった。おかしいだろうか?

やはり手紙では上手く伝わらない気がしてしまう。

もう貴殿は導師として世界を救う旅に出てしまうのかもしれないが、目が覚めたのなら是非我が邸宅を訪れて欲しい。

追伸:贈った服は袖を通してもらえただろうか。

伝承の導師と、その従士になぞらえたものだ。

気に入ってもらえると幸いだ」

手紙には、感謝の気持ちが一杯詰まっていた。
スレイがアリーシャの手紙を読み終わると、アリーシャにお礼がしたいということで、アリーシャの邸宅に向かうことになった。

「(………従士……従士ってなんだろ。あたしは従士なんかじゃないし、そもそもあたしはスレイとミクリオを捕獲しようと……)」

宿屋を出るとき、アリアが立ち止まる。
両手につけたバングルに触れながら、考えた。

「(…やめよ。考えるのとかマジめんどくさい。導師も何も関係ない。あたしは命令されたからやるだけ。あたしは何も間違ってない)」

アリアはそう心のなかで気持ちの整理をつけると、先に出たスレイたちの後を追った。




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