4 扉を開けると、ベッドとソファに最低限の生活品しかないとても女のものだとは思えないほどの質素な部屋の中央のソファに不自然な白い布の塊があった。 「おい、何をしてるんだ」 「あ・・・・ザンザス・・・?」 一応ザンザスの名前と顔はもう覚えたようだ。忘れるなどもってのほかだが。 シーツに包まったまま顔を上げたスクアーロは、普段はキリッと吊り上った目尻を頼りなく下げ、涙の粒を溜めていた。 「う゛ぁぁぁん・・・・!ザンザスゥ、俺、誰も覚えてねぇ!!!」 ザンザスの首にしがみついてスクアーロがメソメソと嘆いた。 いくら傷病人(?)であっても耳元であまり大声を出されると、短気なザンザスは手が出てしまいそうだったので頭を掴みすぐに引き離す。。 「まぁ、そういう事故にあったから当然だ。」 「でもっ、俺が知らないってことは、誰が俺を知ってるのかもわかんねぇだろ??そう思ったら、怖くて」 (コイツでも『怖い』とか思うことがあるのか) 掴んだままの頭は心なし小さく見えてなんだか別の人間のようだった。 「俺ってホントにいたのか?とか、実は誰かの夢の産物じゃないかとか、1人でいたらそんなことしか考えられなくて」 俯いた顔は自信の手によって影になり、表情は伺えないがおそらくまた涙を溜めているのだろう。 スンッと鼻を鳴らしたスクアーロの頭から手を離し、そのまま顎を引き寄せた。 (・・・子供・・・か) 正直どう扱って良いのかがわからない。 チュッ 軽く、触れるだけのキスをするとスクアーロが涙も忘れてきょとんとした表情でザンザスを見た。 (なんだ、そういうことも忘れてるのか) 「・・・なぁ、ザンザスって俺の何?」 どうやら、人物にかかわった記憶も抜けているらしい。つまり、何も覚えていないに等しい状態だろう。 「何だと思う」 頬を伝った涙の後を舐める。しょっぱさが口に広がって、消えた。 「・・・恋人?」 「さぁな」 意地悪く笑みを浮かべると、今度は深く口付けた。 『正解だ、上出来じゃねぇかカス鮫』 [mokuji] [しおりを挟む] TOP |