小説 | ナノ







ホテルの回転ドアを抜けたとたん、ピリッとした気配がした。
正面、フロントの方をみると濃紺にブルーグレーの細いストライプの入ったスーツを着たザンザスがこちらを睨んでいた。



「あ、ザンザス!早かったね!」
そんな空気を無視して跳ね馬がザンザスへと向かっていった。
「ネクタイはして来てって言ったのに!・・・まぁいいけど。それより見てよ。すっごく綺麗だろ?!」
跳ね馬がスクアーロの方へ視線を動かしザンザスに同意を求める。
赤い目がこっちを凝視している。


「・・・・」

「ボ・・・ボス・・・」
「もう!女性を困らせるなよ。見惚れるんなら素直に褒めてやれよ。・・・そろそろ上に行こうか」

まるでちぐはぐな3人は揃いも揃って目立つ外見をしており、ロビーでは遠巻きにこちらを伺う人々が増えてきた。
マフィアという職業上、目立つのはあまり良いことではない。例えキャッバローネの経営するホテルであっても別々のファミリーのボスが揃っている状況でこんなところに長居していては危険だ。
早々に移動を促した。



アルヴェアーレと呼ばれる6階建てのこのホテルは8角形のフロアと琥珀色に輝く照明が美しく雰囲気がいいと評判が高い。
調度品も立派だが、そんなものよりも目の前の男の機嫌だけが気になっていたスクアーロはハラハラしながらワインを口に含む。
(頼むからここで暴れんなよぉ・・・?)

3人は丸いテーブルを囲い、食事をしていたがことあるごとにディーノがスクアーロに話しかけてザンザスの機嫌が悪くなっていってる気がする。
「綺麗だね」「可愛いよ」「俺もそのワインにしようかな」「そのドレスよく似合ってる」
わざとか?というほどにしつこい。


このままでは帰ってからの八つ当たりは必至だろう。
時刻はもうすぐ8時。
スクアーロは早々に切り上げて帰ろうと、ザンザスをちらりと見た。

「・・・」
スクアーロの意図が通じたのか、ザンザスが椅子から立ち上がる。
「あれ?もしかしてもう帰るの?」
次いでスクアーロが立ち上がるとディーノも立ち上がった。
「悪ぃなぁ、また今度な。」

「そっか、・・・ごめんね今日は朝から連れ回して。」

「おぅ。服、あんがとなぁ」

ほろ酔いのスクアーロは扉を出て行くザンザスの怒気に気付かないまま、後を追った。

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