閑話休題
「やァ二人とも。矢っ張り居た」
「こんばんは太宰君。今夜は遅かったですね」
「一寸部下に捕まってしまっていてね」
「上に立つものは苦労が多いな」
「全くだよ。マスター、いつもの。で、何の話してたの?」
「織田作さんの一昨日の仕事の話ですよ。建築業のフロント企業が空き地を掘削してたら爆弾らしきものが見つかって、それでどうなったんです?」
「ああ、それが開けてみたら爆弾ではなくタイムカプセルだった。古い手紙が何通か入っていてそれを随分“大人になった”彼らを捜索して渡してきた。一人は故人だったが他は健在だった」
「何て楽しそうな仕事なんだ!私もそういう探偵ごっこしたいなァ」
「しかし爆弾と間違われるような装いのカプセルというのは如何なものでしょうね」
「逆に入れ物にしたのかもしれないね。丁度大戦の時だろうし」
「成る程」
「あ、マスター今日は摘まみは違うのが善いな」
「どうしたんですか珍しい」
「この前なまえと一緒に美味しい蟹料理屋に行ってね。今日は気分じゃないんだ」
「それは善かったな」
「そういえば、太宰君とその彼女、だいぶ長くなりませんか?」
「そうだねェ、六月の末だから…もう四、五ヶ月は経ったかな。何だい安吾、意外かい?」
「まあそうですね。付き合い始めたと聞いたときは持って二ヶ月だと思ってましたから」
「お前は心中だの何だのと癖が悪いからな。正直なところ俺もそう思っていた」
「二人して失礼だな!私ってそんなイメージ……だった、かもねぇ…」
「これは珍しい太宰君が反省している」
「色々怒られる、というよりなまえが悲しむからなぁ」
「……今日の乾杯は決まったな」
「ええ、そうですね」
「え、何?全然判らないんだけど」
「ほら、グラス持ってください」
「二人とも何で笑ってるの?私だけ仲間外れ?」
「すぐ気付く」
「では、」
――――友を変えてくれた彼女に
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「んでね、この間私が飛行機折ってたらなまえもね、ちょっと休憩だって参加してきて、ほら
「はぁ…さっきも聞きましたね、この話」
「此奴は眠くなると彼女の話しかしないからな。俺たちが聞いていないことにも気づいてないぞ」
「僕のところにも居ますよ、酔うと娘の話しかしない上司」
「ほう、安吾のいる部署は仲が良いのだな」
「……そうですね、実働隊ではないからでしょうか。僕は若造なので毎回付き合わなければいけないのですけどね」
「うー、なまえの作った朝ごはんが食べたい…」
「ほらほら太宰君、こんなところで寝ないでください」
「こんな男の手じゃなくてなまえの手じゃないと起きる気がしない」
「貴方本当は起きてませんか?」
「あー嫌だ嫌だ!ずっと寝てたい!明日から長期遠征なんて首領はなんてことをするんだ!なまえに逢えないじゃないか!」
「それはそれは」
「太宰、それはお前にしか頼めないから首領は任せたのだろう」
「うん、そうなんだけど…」
「ほら、よく云うでしょう。逢えない時間が……どうとか」
「安吾今判らなかったの誤魔化したでしょ」
「兎に角!早く終わらせればその分早く戻ってこれるでしょう」
「頑張れよ。太宰」
「はぁい…」
「却説、どうします?そろそろお開きにしますか?」
「そうだな、遠征があるなら早く帰った方がいい気もするが」
「もう一寸居ようよ。せめてもの抵抗だ」
「首領には届かないがな」
「太宰君の部下のことを思うと同情で胃が痛くなってきます…」
「とか云いつつ付き合ってくれるんだろう?」
「それで送るのは僕という訳ですか」
「流石安吾!織田作も好いよね!」
「好いさ。太宰は暫くここには来れないのだからな」
「よぉし夜はまだまだ長いぞ!乾杯!」