延命談話
そうだ、死ぬなら冬にしよう。

例えば私が死んだら悲しんでくれる人が居るとして、死んだ日には、まァ確実に思い出して呉れるだろうね。その日が近づくにつれ胸の痛みを感じて呉れるなら尚佳い。それで日本という国には夏にお盆があるだろう?花を手向け、香を献げ、悼む。佳い文化だ。加えて風景は蒼く鮮やかでそれでいて刹那的。生命を全身に受けるのに比例して纏わりつく死の空気は一層濃くなる。詰まり冬に死ねば年に二回も遺された人は想い出さずには居られないんだ。夏に死ぬより得じゃあないか!


酷いことを考えますね、とんだ呪いですよ其れ。

そもそも得って、死を何だと思っ…否今に始まったじゃないか。では仮に冬まで待つとして。でも貴方、冬になると何時も寒い寒いって蓑虫みたいになってるじゃないですか。外に出るのも億劫な人に冬は難しいんじゃ?それと貴方、桜の下でお酒を呑むのが大好きでしょう。冬になったらそれが恋しくて死ぬに死ねませんよ屹度。それで気付いたら春まで通り越して夏になってますよ。こうして人は老いていくんですねェ。嗚呼嫌だ嫌だ。
…なんですか、その目。当たり前じゃないですか貴方のこと好きなんだから。まあ佳いです。じゃあ一旦、冬を待つのに付き合ってあげます。こうして過ごして居れば時間なんて直ぐですよ。人は食べて寝て呼吸するのを精神力で止めることは出来ないんですからね。そうだ、冷蔵庫の中何もないから買い物行かなきゃ。ほら、そろそろ陽が落ちますから付き合って…なに…?温泉地番付?こんなに暑ければ行く気にはならないですけど…。はいはい死ぬ前位ね、じゃあ冬になったら私がかき氷が美味しい甘味処でも調べますからそれも娯しみにして下さいよ。それは後でで佳いですから早く買い物の準備し、待って待って今のところ、この上の、此処です、え、善くないですか。佳いですよね。行きましょうよ。私行きたいです。



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