Christian step






 





 どこの国にもある聖誕祭の、ひとこま――――――


12/24は忙しい。メイブリー家は宗教上の理由で祭事を行うからだ。聖魚の加護――――、水の神を奉り、その加護を来年も引き継ぐ為の恒例行事である。オーナメントが飾られた敷地内はいつも以上に煌びやかで、庭先に持つ礼拝堂では聖水を使った儀式が行われていた。蝋燭を灯し、橙の暖かな光が花畑の様に広がる。聖水が滴るそこはいつも以上に神聖な空気に包まれており、朝から長い長い儀式が執り行われていた。

 午後16時を回った頃、メイブリー家当主である父による終息宣言がなされた。その途端、バン!と扉を蹴り開ける音が響く。犯人はメイブリー家、長女のカルロッテである。神聖さなど何処吹く風か、まるで自分に関わりがないとでも言うように、庭先に踊り出ると、一目散に屋敷へと向かっていく。その背中を追いかけて、メイドが駆け寄りながら声を上げた。


「カルロッテ様! お願いですからこのままお屋敷に留まって下さい!」

 止まれと言われて止まるくらいなら、初めから捜索願いの世話にもならないし、留学先から勝手に帰ってきたりもしない。つかつかと進む早足を止めないカルロッテに駆け寄りながら、メイドは何とか彼女の横へと追い付き、説得を続けた。
「カルロッテお嬢様が家出をされてから旦那様は心労のあまりに白髪が増えたと仰っております……! せっかくお屋敷に帰ってこられたのですから、このまま新年のパーティーまでお過ごしになっては如何ですか?」
「いやーよ! アタシが今日、わざわざ戻ってきたのは、宗教行事だから仕方なくよ! 流石に足に刻印貰っちゃってる以上は出ない訳にはいかないでしょぉ? でもそれだけよ!」
 強気な態度を崩さないカルロッテを相手に、メイドは「でも」「あの」と言葉を紡ぎながら食い下がらない。健気とも取れる姿だが、カルロッテは左手をひらひらと揺らしてあしらった。
「大体、パパの頭なんてもともと真っ白じゃない。何が白髪よ、目まで魚になっちゃったの?」
「いえ、そういう訳では……」
「とにかく! アタシはこの後にも用事があるの。この家に引っ込んでる場合じゃないのよ!」
 カルロッテはそう言い残し、漸く説得を諦めたメイドを振り切って屋敷へと姿を消した。
 



今日はクリスマスイブなのだ。


恋人たちにとって、今日ほど幸せな一日はないじゃないか






***



 待ち合わせは中心街のスリジアの木の下にした。
 今年のスリジア祭りも賑わっていたようだが、カルロッテは参加できなかった。大分遅れてこの木の下にやっくる訳だが、今日はオーナメントが飾られて一段と美しい。魔力を宿した星のランプが気まぐれに光る姿が、聖誕祭らしくて好きだった。

「あああもう! 遅刻とか有りえないんですけど! おっちゃん早く下ろして!」
 屋敷から馬車を乗り継いで漸く中心街まで入ってきたが、行き交うに人の多さに馬車は進めなくなってしまった。仕方がなく代金を渡して途中下車すると、カルロッテは人の合間を縫って走り出した。履き慣れているとはいえ、ヒールを鳴らしながらの全力疾走は中々に辛い。辛いことに加えて、スリジアの木の下は余計に人の数が多く、灰色の髪を見つけるのも一苦労だった。ぐるりと木の下を半周した頃、スリジアを見上げるルオの姿を発見できた。
「ルオ〜〜〜〜〜!」
 思った以上に情けない声を発しながら、半ば倒れ込むようにルオの背中に凭れ込んだ。唐突に背後から抱き付かれたルオは、「うわぁ!」と驚嘆の声を上げたが、相手がカルロッテだと解ると、困ったように笑った。
「吃驚したであります……。カルロッテさん、前の用事は無事に終えられたんですね、良かったであります!」
 ルオの屈託ない笑顔の眩しさに圧され、カルロッテは思わず引き攣った笑顔を返してしまった。ばれる前にと俯いて顔を隠す。
 カルロッテは午前中、家に戻っていることをルオには伝えなかった。なんとなく、そのまま家に居た方が良いんじゃないかと薦められるような気がして、つい口を閉ざしてしまったのだ。家出をした理由は至極どうでもいい理由だったが、今では彼との同居生活を捨てたくない思いが強くなってしまっている。きっと、自分の為を想って家に戻るように言ってくれるかもしれないけれど、カルロッテが欲しいのはそんな言葉じゃないし、クリスマスに喧嘩の種になるようなものは取り除きたい。
 カルロッテは暫くルオの背中に顔を埋めていたが、腰に回した手に手を重ねられたのを合図に、腕を解き、ルオの正面に回った。互いに向き合うと、数時間ぶりの笑顔に癒されてしまう。ルオも午前中は、海軍の勤務だった筈だが、ケガもなく定時で上がってこれたようだ。
「では、そろそろ行くでありますか? 早く入らないと、どんどんお店が込んでくるであります」
 ルオは大通りに並ぶ雑貨屋などを指しながら問う。カルロッテは「そうね」と頷いた。
「予約したディナーまでは、まだ時間があるし。ぶらぶらしましょ! まずはあっちの生活雑貨ね!」
「生活雑貨でありますか? 何か欲しいものがあるなら、自分g」
「アンタがお金出すのは当たり前でしょ〜〜〜!」
 ルオの語尾に食い入るように声を張り、カルロッテは彩られた爪先でルオの鼻先を弾いた。「いた!」と面食らって肩が跳ねるルオの瞼が白黒としている。一体何事だと言わんばかり見下ろしてくるルオの困惑の色を睨み返して、カルロッテは眉を吊り上げた。
「アンタとお揃いのもの買うんだから、お互いお金出すのは当たり前でしょ! ただでさえ2人して生活用品揃ってないんだから! 可愛い雑貨が揃うクリスマスシーズンに狙いをつけて纏め買いするわよ!」
「え?! そういう趣旨でありますか!?」
 鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情を晒すルオの横で、カルロッテは拳を握って意気込んだ。返事などする必要もないとばかりの決定事項だ。よしと気を引き締めてルオの腕を引っ張り、クリスマス戦場へと踏み出していく。
 どうしたものか、まさかクリスマスに感けて生活雑貨漁りも兼ねるとは。効率的と言うか好機を逃さないその姿にムードの欠片もない。やれやれと苦笑しつつ、ルオも心持ちを整えてカルロッテの後に続いた。煌びやかな大通りは見ているだけで華々しく、女の子たちが瞼を輝かせてショッピングに勤しんでいる。女の子らしさという点では平均から劣るカルロッテですら、可愛い商品が揃う棚を眺める時は楽しそうに微笑んでいた。


まぁ、デートには変わりがないし、これはこれで良いか

 
 ルオはカルロッテの選ぶものに相槌を打ちながら、籠に商品を並べていた。
 クリスマスの夜は、まだまだ始まったばかりだ。

























































「あ、そうだ、この後は下着屋さんに行くから、ちゃんとどんなのが良いか選んどきなさいよ?」

「Σ下着!?」
「そーよ! 今夜アタシが着けるやつ! アンタの下着買いたいなら選んであげてもいいけど」
「Σえ、ええええええ!?」




2人ノ夜ハ始マッタバカリ








fin.










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