可愛くない魚






 





いりこ様より「浮かび上がる想いは】 のお返事です




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(今になって解るって、なんでそんな情けない話で正面切ってくるのよ……)




 引いた分だけ引き寄せられ、突き放そうと押しやってもぴくりともしなかった。真っ直ぐに降りてくる眼差しの強さから逃れるように俯いて、ひたすら耐えてしまう。

 こんなにストレートに、真っ直ぐに好意を伝えられたことがなかった。
 それなりの遊びの延長から、付き合いはほどほどから発展して、いろいろなパターンはあったものの、気持ちが先にやってくるような、いわゆる順番通りの恋愛なんて悉く失恋続きで、正直どうしたらいいのか解らない。顔が上げられないのは顔が熱くて見られたくないからだ。けれど、ルオの手は掴んだまま離してくれないし、いつまでも返事を待っていてだんまりを決め込んでいる限り、この場を納めることは出来ない。
 瀬戸際のギリギリまで引っ張るように唇を引き結んでそっぽを向いたまま、カルロッテはいよいよ観念した。






「………………アタシも好き」

それは、小さな小さな、それも蚊が鳴くような、というよりほぼ音になっていなかったのではないかと疑わしいほどの声だった。


「…………」

 ルオは相変わらずの真剣な表情でカルロッテを見下ろしている。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「…………え?」

 やはり聞こえていなかったようで、ルオは神妙な面持ちでただ一言、そう疑問符を打つ。精一杯譲歩した(というのも可笑しい話なのは重々承知で)つもりなのに、聞き返されると余計に恥ずかしくなって茹で上がりそうになった。とはいえ、せっかく答えたのに聞き取ってくれなかった(もちろん聞こえないように言った訳だが)男に対して、こちらが不機嫌になっても因果応報が成り立つ(女からみた勝手な論理)。カルロッテは真っ赤にそまった顔を少しだけ持ち上げて垂れがちな瞼を細め、ルオを見返した。ルオは全く何が起こったか解っていない。

「言えって言ったから、言ったけど、聞こえなかったの?」
「…………………………え………、え!?いえ、聞こえなかったであります!も、もう一回……!」
「絶対いや!!」

 カルロッテは間髪入れずに噛み付いた。横を向いていた顔を正面に向き直しつり上がった眉をさらに釣り上げて睨みつける。さっきまでの勢いは何処へやら、形勢逆転し、ルオは困惑していた。


「大体、さっき気づいたって何よ!行き当たりばったりに言えば良いってもんじゃないんだから!ダンスだって1から3までステップがあんのよ!順番があるんです物事って!なんでそういうのを踏んで来ないのよ!いきなり言われたって何も準備してないし、頭の中くちゃくちゃだし、もう本っ当に有りえないったら!」
「い、いきなりも行き当たりばったりも、こんなところで風呂入ってるカルロッテさんが言う台詞じゃないであります!」
「上から見えてるなんて知らなかったんだから仕方がないでしょ!?元はと言えばルオがさっさと来てくれなかったからじゃない!なんでウリセスの方が早いのよ!何よ伸び直してるって!」
「そ、……」
 それは、と言いかけてルオは口を噤んだ。ウリセスと同じ様に言いたがらない理由は解らないが、勘ぐっても余計な方向にしか向かないと察し、カルロッテは「それは別にいいけど!」と自分から振った話題を放り投げた。そして隙をついてルオに掴まれていた腕を振り払うと、力一杯ルオの胸板を押しやった。女の力などでどうにかなる体格ではない筈だが、油断したのと、先ほど水気を切り濡れていた床に足を取られ、プールサイドの長椅子に腰を落とす形で落ち着いた。頭一個分の身長差が逆転する。

「………っ!」

 カルロッテは癇癪を溜め込んだような顔でルオを見下ろした。両手で自分の顔を包むと思った以上に熱い。ああもう信じられない。初恋の時みたいで今更こんなになるなんて思いもしなかった。のめり込んだ相手の男はこちらの様子を伺うように見上げてくる。


ああもう、何でこの人がいいんだろう



 水族館で遊泳している魚みたいだ。
 同じところを回っていることに気づかない。





 カルロッテは大きく息を吸い込むと、一歩踏み出してルオの膝を跨いだ。「ちょ!」と声を上げる男の声を御構い無しに正面から向き合う形で腿の上に座り込むと、ムスりと眉を釣り上げたまま男を見下ろし、その頬を抓った
「い…!?」
 瞠目するルオの顔を見ていると、また恥ずかしくなってくる。



「好きって、言ったのよ!」


 脈絡もなく、彼が求めていた言葉を紡いだ。引っ張った頬は相変わらずで、ルオはさらに青い瞼を見開いて口を開けた。その表情を見ているとむず痒くなって、我慢がならなくなる。



「二回も言ってあげたんだから、とっととキスの一つでもしなさいよ!」




 今を逃したら、銛でも、網でも、掴まってあげないから
 たっぷり餌を付けて、一気に釣り上げてよね








fin,




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