済し崩し






 





「え、パーティですか?今夜これから??」
 素っ頓狂な声を張り上げて問い返したのは、ガロットだった。

 それは11月末、満月の夜――――
 ベルホルトの仕事の上がりは定時通り17時で、湯に浸かり、食事を済ませ、その後は愛し合うはずの時間だった。満月の宵は、悪魔の力が解放されるーーーそれはガロットの生まれ持っての習慣で、力の制御ができず本性を晒してしまう。この日に抱き合うことは、互いにとって儀式的なものになりつつあった。ガロットにとっては本当の自分を受け入れてもらう意味も含まれるし、ベルホルトにとっては彼への最大限の受容の証となる大切な時間だったはずなのに、約束を反故にしたのはベルホルトだった。済ますものを済ませ、さぁベッドに……と思ったところで、再び騎士礼服に着替えながら事情を話し始めたのである。
「パーティというか、飲み会というか……。少しばかり隊内の事情が変わっていて、鳥目の私ですら回避できそうにないんだ……」
 かくかくしかじか、ベルホルトの説明を聞くに上司の出世祝いという至極リーマン的な理由だった。後々、自分たちに良く返ってくるものだと思うんだ、というベルホルトの説明が、ガロットには理解が出来ない。
「……将来のために、わざわざ他人を祝いに行かれると……?」
 すでに赤い角がじんわりと怪しく光りつつあるガロットに、いつもの聞き分けの良さは感じられない。じっと主人を眺める目つきは、もともとの鋭さをより尖らせている。流石のベルホルトも苦笑を隠せなかった。
「その……政治的な理由もあるんだ……。私も本意じゃない、出来るだけ早く帰ってきて、君と過ごしたいと思っている…。けれどそのためには、早く行かないとならないだろう?」
 困った顔で騎士服のボタンを留め終え、手袋をきっちりと嵌めるベルホルトの一連の動作を黙って眺め終え、ガロットはため息をついた。やれやれと頭を振った後、手にしていたストールを広げ、扉の前まで移動するベルホルトの肩にかけてやった。ふわりと包まれる暖かさは、物理的にも心理的にも働くもので、ベルホルトは顔を上げて少しだけ笑った。ガロットの頬に手を伸ばし手袋越しに触れる。
「……本当に済まないと思っているよ。……廊下に出る前に、キスをしないか?」
 部屋の中だからこそ、ランプの明かりがそこかしこにあるから、彼を視認できる。すっかり夜が更けてしまった廊下は暗く、盲目になる前に決着をつけておきたかったが故に強請ってみたものの、ガロットは瞼を細めてベルホルトの金色の瞼を見下ろすだけだった。悪魔の時は色々と素直になる傾向があるガロットが動かない理由を察するに、拗ねているのか、怒っているのか。揉め事を起こしたい訳ではなかったが、こうなると気が気じゃなくなってくる。ベルホルトは柳眉を下げた後、ガロットの頬を両手で包んだ。少しだけ、赤い瞼が見開かれる。
「……愛してるのは君だけだよ。明日は休暇にしているし、今日の分は明日も償うから」
 許しを請う主人を見下ろしながら、少しだけガロットは笑った。
「…………ベルホルト」
 主人と従者という垣根を越えた時にだけ、名前で呼ばれる。急に懐に入られた様で、立場も権限も何も持たない唯の男だと言われているようで、息が止まりそうなほど緊張する。そして胸が、耳が、熱くなるのが分かった。
 包んだ頬を引き寄せたのか、ガロットが降りてきたのか、徐々に距離が縮まり唇を合わせた。互いに果実にかぶりつくような、深い交わりが始まる。



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