信じる者-2


 
「それはまだわかんねえな、俺も別に聞きに行ったわけじゃねえから」
 嫌いなゆで卵を無理矢理お茶で流し込んで、シカマルは一息つく。そして思いのほか真剣な眼差しで、ナルトとネジを見渡した。
「ただな……俺たち、最近ちょっとヒマすぎると思わねえか?」
 確かにシカマルの言う通り、以前に比べると暇と言っていい状態が続いている。
 殉職による入れ替わりの激しい暗部にあって、不動の地位と実力を持つ彼ら特秘部隊『陽炎』に、火影から命じられる任務は通常の暗部よりもなお過酷で重要なものが多い。
 連日、里の存続や国家の存亡に関わるような任務を掛け持ちでこなすことも多かったのに、ここのところそれが少ない。
 三代目は休めるなら少しでも休んでおけ、と言っていたが、あまりにそれが続くとかえって不気味に思うのは、職業病というものだろうか。
「……ちょっと探ってみた方がよさそうだな」
 そう呟いて、ナルトはその場に仰向けに寝転がる。
 どんなに実力があっても自分たちの身体はまだ子供で、健やかな成長のために休息は必要だ。
 だが、火影の手足として重要な位置にいることもまた自覚している。

 火の国という大国の中にあって、忍の里としても最大規模を誇る木の葉だけに、その動きが世界に及ぼす影響は大きく里長たる火影の責任も重大だ。少しでも判断を誤ると、それは世界の均衡を崩すことに直結する。

 だからこそ自分たち『陽炎』がいるのだ。

 火影直属のはずの暗部にも派閥があり、里の上層部がそれを握っているせいで、時には火影の意のままにならぬこともある。だが『陽炎』は完全に火影直下の部隊だ。その正体を知るものは三代目しかおらず、火影と隊長であるナルトの命でしか動かない。
『陽炎』は、火影とともに世界を動かす力の一端。
 その自覚と自負があるからこそ、任務が少なく暇であることを推奨しそうなシカマルさえ、今のこの状況を怪訝に思うのだ。
「そうだな、『一楽』を動かしておいた方が――」
 頷いて言いかけたネジが、突然言葉を切って空を見上げた。眩しさに細められたその視線の先には、円を描いて舞う鳥が一羽。
 ――独特の声で一声、鳴く。

「……言ってるそばから呼び出しか」
 ナルトは一つ息をついてから、反動をつけて立ち上がる。
 今回の火影からの直接の呼び出しはナルトだけ。シカマルとネジに視線を向けると、二人の小さな頷きが返ってきた。
 何も言わなくても、二人は暗部諜報部隊の隊長にして『陽炎』の一員である『聡耳の一楽』に繋ぎを取って、先に動きはじめるだろう。
 命じなくても伝わる意思を、知っている。
「……行ってくる」
 だからナルトはそれだけを口にして、その場から瞬身の術で姿を消した。

☆ ☆ ☆


 この時間には珍しく、三代目は火影邸の執務室で一人、煙管をくゆらせていた。
「――お呼びですか、火影様」
 その場に、ぽつりと静かな声が落ちる。
 微風ひとつ立てず、いつの間にか執務机の前に立っていたのは、黒装束に狐面の少年。火影にすら気取られぬ見事な気配絶ちに、三代目は苦笑して彼を迎える。
「……すまんな『九影』、こんな時間に呼び立てて」
「いいえ。おかげさまで最近は暇を持て余しておりましたから」
『九影』として行動する時には珍しく、冗談めかしてナルトが肩をすくめた。気配を探り、誰もいないのを確認してから、面を取って砕けた口調になる。

「で、何の用? じっちゃん」
「うむ、実はなナルト。まさに今問題なのはそこなんじゃ」
「そこって……俺たちが暇なこと?」
「そう」
 三代目は椅子に深く腰掛け、溜め息にも似た深さでゆっくりと紫煙をはきだした。

「忍への依頼が激減しておる」

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