信じる者-1


 
「アナタハー、神ヲー、信ジマスカー?」
「は?」

 あるうららかな昼下がり、買い物帰りにいきなりカタコトで尋ねられて、雪那は素っ頓狂な声を上げた。
 目の前には、木の葉じゃナルトの他にあまり見かけない見事な金髪碧眼の男が、胡散臭い笑顔で立っている。ビラビラの衿にゆったりとした黒い服は、歴史の教科書に載っている典型的な宣教師ルックだった。しかも頭のてっぺんが、微妙に薄い。
 ザビエルだ。ここにザビエルがいる。
 日本で会ったなら、きっと普通に敬虔なカトリック信者か、神父さんだと思うのだろう。ちょっと古風だが。
 だがここは異世界、うっかりジャシン教とかだったらどうしよう。
 いや、それともアレか。
 テム○ンみたいに海の向こうの大陸から来て、「ライトニング・サンダー!!」などと『NARUTO』の世界観に挑戦するかのごとき技名を叫ぶ人種か。(分からないキミは、劇場版『大激突!幻の地底遺跡だってばよ!』を見よう!)

 どう対処していいか分からず固まっている雪那に、ザビエル(仮)はニッコーと、うさんくさい笑みをますます深くした。
「私タチ、トテモトテモ遠イ国カラ布教ニ来マーシタ。オ嬢サンモ、説法聞キニ来マセーンカ? 今ナラ、コノ霊験アラタカーナ厄除壺、一ツ差シ上ゲテマース」
 そうまくし立てると、どこから取り出したのか、いつの間にか手に持っていた小ぶりの白い壺(思いっきり漢字で『厄除』と書いてある)を高々と天にかざす。
 霊感商法!?
 いや、差し上げますと言うからにはタダなんだろうけど、タダより高いものはないって言うし。
「……うち、浄土真宗なんで!」
 しゅたっと軽やかに片手を上げると、雪那はチャクラを一気に足に集めて、猛ダッシュで逃げ出した。
 ……さすがに親鸞上人はいないだろう。この世界には。

☆ ☆ ☆


「得体の知れない宗教?」
 昼休みのアカデミー屋上。
 午後の授業はまるまる影分身に任せて昼寝する気満々だったナルトは、シカマルのもたらしたその情報に、体を起こして訝しげにそう尋ねた。
「……あー、何か最近、辻説法つーのか? 人集めて道端で説教してる奴らがいんだよ。多分外国人……それも相当遠い国か、もしくは新興宗教だな」
 あんなのは俺も知らねー、とダルそうに言うと、シカマルは弁当箱に残ったゆで卵を箸でつつく。
 ……咽喉に詰まるから、かたゆでは苦手だ。しかし残せば家庭の最高権力者たる母の鉄槌が待っている。
 仕方ないので、小分けにして持ってきた醤油をかけ、少しでも食べやすいようにしてから口に放り込んだ。
「その内容には、何か問題でもあるのか?」
 すでに食べ終えた弁当、と言うよりは重箱(しかも家紋入り)を傍らに置いたネジが、訝しげに眉をひそめる。
 何も知らない者が見れば、さぞ奇妙な集団に映っただろう。
 親がいないがゆえに、通常の年齢より早くアカデミーに入学したが、万年ドベで卒業できないナルトと、同じ最終学年ながら孤高の天才と謳われるネジ、そして一つ下の学年で居眠りばかりしているシカマル。
 一見何のつながりもないこの三人が、アカデミーの屋上で一緒に弁当を食べる仲だと、知っている者は少ない。

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