逆襲。-3


 
 雪那はナルトに横抱きに抱えられたまま、強制的にアパート(しかもナルトの部屋)へ連行されていた。
 ナルトが表バージョンの体面をかろうじて保っていたのは、部屋に戻るまで。
 一歩中に入って雪那を降ろし、後ろ手に玄関の扉を閉めた瞬間、不可視の結界に守られたその空間に広がる本来の彼の存在感。

 ……何かアレだ。ものすごく、本能が警鐘を鳴らしてる。
 雪那は恐る恐る、ナルトの不機嫌な顔を見上げて尋ねた。

「……な、ナルトさん……? 私の部屋は隣ですが……」
「帰すと思うか?」
「うわーん瞬殺!」

 どうしようどうしようなんか怒らせた!?
 任務の邪魔とかしちゃった!?
 あれだけの殺気が飛んできたんだもん、きっと一楽の客の中に怪しい人物が混じってたのよねあああ私ったら何年隠れ忍者やってるのそんなことに気づかないなんて!!
 これじゃナルトの影の右腕(自称)失格よーー!!
 と、パニクって半泣きで頭の中を垂れ流して口走る雪那に、ナルトはまた呆れたような溜め息をついた。
「……ハァ、任務じゃねーよ。お前はもうホントに……」
「え、あれ? 任務じゃなかったの? って、あの、ちょっと、ナルト……?」
 そう言って近づいてくるナルトに何だか危機感を覚え、雪那はじりじりと後退さる。
 壁際に追い詰められた姿は、まるで蛇に睨まれたカエル……いや、この世界のカエルはサイズにもよるけど案外蛇と互角に戦ってたから、蛇に追い詰められた小鳥と言った方がいいかもしれない。しかも鳥籠の中で。
「何で逃げる」
「え、いや……何となく食べられそうな雰囲気っていうか……」

 だって今のナルト、どう見ても捕食者の顔をしてるよ!

 そう言ったら、ナルトは目を細めて口の端を引き上げた。
 雪那の顔の横で壁に両手をついて少し屈んでいるから、その凶悪にカッコ可愛い顔は雪那の目の前の超近い位置にあるわけで。

「ああ、よくわかったな」

 鈍いお前にしちゃ、上出来だ。
 壁とナルトの腕と顔に四方を塞がれた雪那は、思わずがちりと固まった。

 ……うん、確かに昔、私はさんざん「かわいい」と言ってはナルトに抱きついたし、ほっぺにちゅーもしたよ。
 かわいくてかわいくて頭から食べてしまいたいとか思ってたよ。だってナルトは顔も可愛いけど存在自体がもう全部かわいすぎて……っ!

 でもそれはかんっっっぜんに、『萌え』だと思ってたのよ!!

 だから平気で迫ったりできたわけだけれども、今や背も伸びて顔立ちもシャープになってほどよく筋肉もついたナルトはそりゃあもうかっこよくなっちゃって、本性モードでニヤリ笑いなんてした日には壮絶な男の色気なんか醸し出したりしちゃって、目が合うだけで心臓に悪いってのに、さらに迫られたりなんかしたらもう……!!(でも見たいし見て欲しいしなにこの矛盾だらけのヲトメ心!!)

 ああ、神様仏様四代目火影様。
 これは過去の所業の報いでしょうか。

 何だか今になって、ナルトに逆襲されてます!!

「セツナ……」
 固まったままパニックに陥っていた雪那の頬を、ナルトの手がそっと包む。
「任務じゃなくても、人前だろうが何だろうが、いつだって俺は」
 するりと撫でるように顎の辺りにすべり降りてきたその手の親指に、ゆっくりと下唇をなぞられて、さっきの痺れるようなキスを思い出した。
 頬どころか、頭に熱が凝縮されたみたいにひどく熱い。眼球が蒸発しそう。
 じっと見つめてくるナルトの目は、それだけで溶かされてしまいそうに熱くて、けれど逃げることも許さない強さで雪那の視線を絡めとる。

「この唇も頬も瞳もセツナの爪先から髪の一筋まで全部、まるごと呑み込んでしまいたいくらい俺の、俺だけのモノにしたいと思ってる。
……これを『愛してる』なんて言っていいのか、俺には分かんねーけど、セツナ……お前を誰にも取られたくないんだ」

 俺がそう思ってるってことを忘れるな、と。


 う……わ。
 このひとは、なんて顔でなんてことを言うんだろう。
 今さら破れそうなくらい乱れた脈を打っている心臓を、直にぎゅっと握られたみたいな痛みに、息ができない。
 ああどうしよう。

 キュン死!
 キュン死しちゃうからーー!!

「っ、……!」
 恥ずかしくて逃げたくて、だけど抱きしめたいくらい嬉しくて愛しくて、もうどうしたらいいか分からなかった。
 何か言いたかったのに、胸が詰まって言葉なんか出てこない。
 ……ああそっか、出てこないんじゃなくて、きっと言葉じゃ足りないんだ、もう。

 そう思ったら、動けなかったのが嘘みたいに、ナルトにぶつかるみたいに抱きついて、自分からキスしていた。
 唇を重ねるだけの軽いキスだったけれど、ナルトは一瞬驚いて目を見張る。
 ……考えてみたら、メルヘンゲットしとくべきかと悩んだことは多々あれど、結局自分からした記憶がほとんどないような。
 ……、……って。

 ぎゃー!!
 私ったら大胆なマネをーー!!(今さらだ!)

 余計なことを考えてしまったおかげで、うっかり羞恥心が再燃してしまい、雪那は慌てて身体を離す。
「ああああのねナルト! これはその――んっ!」
 いたたまれず、真っ赤になってしようとした言い訳は、最後まで言うことを許されなかった。
 背後の壁に押し付けられ、唇に文字通り噛みつかれて、食べられる、と思うような激しさで口付けられる。

 え、あれ、何かさっきのでナルトの理性ぶっ飛ばしちゃった!?
 火ィつけちゃった!?

 無防備にひらいていた唇に、強引に侵入してくるナルトの舌。
 それが上顎をなぞり、根元から舌を絡め取られて、背筋がぞくりとした。
「っ、ナルト、……」
「セツナ……」
 膝からすっかり力が抜けてしまった雪那の腰を片手で支えながら、ナルトの唇が顎を伝い、首筋を這い下りてくる。
 恥ずかしいとか、このままここで流されちゃダメだとか(だってここ玄関先だよ!)、酸素不足で真っ白になった頭では何も考えられなくて、首筋を強く吸われた痛みに思わず身をすくめた瞬間――。

「おーいナルト帰って――」
 いきなり玄関が開かれて、現れたのはシカマルだった。

 ……。
 痛いほどの沈黙がその場を支配した。


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