逆襲。-4


 
「……」
「……」
「……わりー邪魔した」

 一瞬で状況を察したシカマルが、何事もなかったような無表情でドアを閉める。
 言われて我に返った雪那は、自分の体を見下ろして悲鳴を上げた。
 普段マオカラーの襟の高い服を好んで着ることの多い雪那だが、いつの間にか(本当にいつの間に……)襟元ははだけられていたし、さっききつく吸われた首筋には、自分では見えないけどきっと赤い痕がつけられているはずだ。
 ちょっとばかり、ていうか明らかに、あられもない格好だった。

 ……シカマルじゃなくてもこれはアレだと思うよーー!!
 いーやー!! 恥 ず か し い !

 真っ赤になってずるずると座り込もうとした雪那だったが、その前にナルトにすくいあげるように抱き上げられて声を上げる。
「うひゃあ!?」
「……結界、あいつらも入れねーやつに変えとくか」
 ナルトが何だか真剣な顔でそう呟きながら歩き出す先に、一抹の不安を覚えて暴れてみても、力でナルトに敵うわけもなく。
「な、ナルト! ちょ、待っ……!」
「無理」
「即答!? でもまだその、夕方ですが……!」
「うちの遮光率99.99%以上の一級遮光カーテンに何か文句でも?」
「すいませんありません!!」

 睨まれて玉砕した。
 ……うう、美味しくいただかれるしかないのね……。

 このアパートはそんなに広くないから、あっという間に寝室に連れ込まれることになる。
 けれど強引に連れて行かれてわりに思ったよりそうっとベッドに降ろされて、雪那は戸惑い気味にナルトを見上げた。
 その先でぶつかった視線に、息を呑む。
「……雪那」
「……っ」
「俺を、拒むか?」
 そんな聞き方って、ない。
 しかも捨てられた子犬みたいな顔でなんて……反則だ。
 だいたい嫌なわけなんかなくて、幸せすぎて心臓止まるかと思うくらいなんだけど、まだ慣れていなくて恥ずかしさが勝るというか……っ!

 ――ああもう、完敗だよナルト。

「……ナルトを拒むなんて……それだけはあり得ないよ」
 雪那は覚悟を決め、ナルトを見上げた。ああ、きっと今、ひどく情けない顔をしているに違いない。
「……お手柔らかに、お願いシマス……」
「……善処する」
 途端に晴れやかに笑ったナルトは、絶対分かっててやってるはずだ。
 私がナルトのああいう顔に弱いのを知っていて、わざとやってるに違いないよ!
「……うう、ずるい……確信犯でしょ……」
「雪那みたいな天然の方が、タチ悪いと思うけど……もういいだろ、黙れ」
「ん……」
 それ以上の抗議は、ナルトの唇に吸い込まれて消えた。
 すぐに何も考えられなくなるのは分かっていて、それがちょっと悔しかったから、ささやかに逆襲しようと決意する。

 唇が離れたら真っ先に、ナルトの首に手を回して、耳元で囁いてあげるのだ。
 確信犯でも、腹黒くても、強引でも……百回言っても足りないくらい――愛してるよ、って。

☆ ☆ ☆


 翌朝。
 ナルト宅へ、シカマルからお詫びの品が届きました。

 奈良家特製栄養ドリンクが三ダース。
 もちろん、鹿の角入り。
 鹿の角の効能っていっぱいあったはずだけど、確か疲労回復、老化防止、免疫力強化、強精強壮etc……って!
 そんなもの、無尽蔵のスタミナ(いろんな意味で……)を誇るナルトには、必要ないと思うんですが!
 一緒に箱に入っていた手紙には、シカマルの性格を現したような憎らしいくらい端正な字が並んでいた。

『昨日は邪魔して悪かった。
デスクワークは、どうしても総隊長の決裁がないとまずいもの以外は、ナルトが留守の時と同じように俺とサクラでやっておく。
今日一日くらいセツナ共々休んでて大丈夫だから、存分に休んでくれ。

追伸。
鍵ぐらい閉めとけ、バカップル』

 シカマルの気遣いが痛いよ……!
 いや、最後の一言には『ごもっともです……』としか言いようがないけどさ。
「持つべきものは優秀な部下、かつ気遣いのできる親友だよな。今日はありがたく休ませてもらうか」
 手紙を手にしたまま固まっていると、いやに上機嫌なナルトに後ろから抱き寄せられた。
 ……まあナルトが幸せそうならいっか、と、雪那はナルトの肩に頬をすり寄せて微笑む。そう思えてしまうあたり、雪那も相当彼に溺れているのだろう。

 だって結局、それが雪那にとってもこの上ない幸せになるのだから。


【終】

[*前]




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