逆襲。-2 ナルトは里へ帰ってくるなり火影への報告には影分身を飛ばして、本体で一楽へ直行した。 この時間帯、雪那は一楽でバイトしているはずだ。そして最近、雪那にちょっかいかけてくる男が多いことも『一楽』から報告されている。 雪那が働き始めてから一楽の客は増えたが、その増えた大半は雪那狙いの男だというのだからナルトとしては気が気ではなかった。 あの雪那がそのへんの男にどうにかされるとは思ってはいないけれど、不快なものは不快なのだ。 瞬身の術はまだ表の自分には使えない設定なので、通いなれた道(というかむしろ高低差無視の直線距離)を飛ぶように駆けて行く。 一楽の味は一流でファンも多いが、テウチの方針によって店の規模を大きくすることなく続けられていたため、相変わらずカウンター席しかない。その少ししかない客席はすべて埋まっていたし、すでに行列も相当できていた。 そしてそのほとんどが男だ。 ……マジでバイトやめさそうかな、雪那……。 ちょっと本気でそんなことを考えながら近くの建物の屋根から飛び降り、カウンター奥のテウチに叫ぶ。 「おっちゃん! セツナいる!?」 テウチはナルトの姿を認めて破顔した。客も全員振り返ったが、知ったことじゃない。 「おおナルト、任務ご苦労様! セツナなら奥に……」 「ナルト!?」 昔はよく憎しみと殺意のこもった視線にさらされていたものだが、それとは若干違う意味の視線がナルトに突き刺さる中、雪那が勝手口から飛び出してきた。 久しぶりに会うからだろうか、いつもは笑って出迎えてくれる雪那が、何て顔してるんだ、と思うくらい大きな目を潤ませて駆け寄ってくる。手に包丁(業務用)を持ったまま。 ……うん、それくらい俺に会いたかったんだと思えば、嬉しいけどな? そんでもって、刺されたくらいじゃ俺死なねーけどな? 包丁は、置いて来い。 「ナルト……っ!」 しかしナルトのそんな願いも空しく雪那はやっぱり包丁を持ったまま抱きついてきたので、抱きとめる瞬間にすかさず雪那からそれを取り上げ、テウチの方へ投げておいた。 業務用の包丁は高速でくるくると回転しながら、明らかに雪那に見とれていた客の頭の上ギリギリをかすめてテウチに見事キャッチされる。 客は「ヒッ!」と悲鳴を上げていた。ギリギリどころかいっそぶち当ててやりてーがそこは我慢。 むしろ神聖な一楽の包丁が穢れるから。 「セツナ、ただいま。遅くなって悪かったってばよ」 そして包丁の行方は一切無視して、ナルトは腕の中に閉じ込めるようにぎゅっと雪那を抱きしめる。一応公衆の面前だってことは自覚しているので、表の演技は忘れない。 子猫みたいにしがみついてくる雪那はそれだけで可愛くてしょうがないのに、頬を紅潮させて潤んだ瞳で見上げてくるその角度は、凶悪にナルトの理性を揺さぶった。 「うん、おかえりナルト……寂しかったよう……」 その上、泣きそうなか細い声でそんなことを言われたら。 あ、無理。 これ以上我慢とか無理だし無駄だから。 ナルトはあっさり自重するのを諦めた。 すなわち、 「ナル――んぅ!」 目の前の雪那の唇に、迷いなくかぶりつく。 一楽の前だとか、公衆の面前だとか、そんなことはどうでもいい。 二人で暗部任務に行った時なんかは、よく尾行対象をごまかすために道端でイチャイチャ(俺的には役得)してたから、別に人前でするのは初めてってわけでもないし……ってか、こんなかわいい雪那前にして我慢できたら男じゃねーだろ!(開き直り) 「んん……っ」 さすがに驚いて逃げようとした雪那の後頭部を掴むように固定し、角度を変えてさらに深く、息もできないほど何度も何度も口付けた。 まあどうせ初めから、いまだに俺から雪那をかっさらえると思ってる野郎どもに、そんな隙などどこにもないと見せ付けてやるつもりだったのだ。むしろこれでも生ぬるい。 うっすらと開けた視界の端に、真っ白に燃え尽きたような男どもの顔が映る。 殺気を飛ばしてくる連中もいるが、あいつら程度じゃ雪那に手は出せないだろう。 俺以外の男にこんなことされそうになったら、いくら雪那が鈍くても、容赦なくぶっ飛ばしてるだろうしな。まあその前に俺が殺すけど。 はっ、ざまあみろだ。 最初はわずかに強張っていた雪那の手も、だんだんと力をなくして、そのうち申しわけ程度にナルトの胸元にしがみついているだけになっていた。 もっと貪っていたかったけれど、これ以上やると雪那が倒れそうな勢いだったので、仕方なく離す。 そうしてようやく解放され、くたりと身を預けてきた雪那が、上がった息を整えながらナルトを見上げて小さく囁いた台詞は――。 「……何か、後ろから殺気がいくつも飛んでくるんだけど……もしかしてお客さんの中に、任務に関係ある人、いた……?」 ……。 ああだめだ。 今の、完璧に任務上の行為だとか思ってるだろ雪那。 じゃなきゃもっと違う反応だったはずだ。 雪那は昔から無防備に抱きついてきたり、ほっぺたにキスしてきてたくせに、いざナルトが迫ると真っ赤になってうろたえるのだ。 確かに公衆の面前でこういうことをする時は、たいてい今まで任務での作戦だったり、チャクラ受け渡す時だったりしたさ。 まあ俺は単に任務にかこつけてキスしたかっただけって時もあったけど。一石二鳥だって思ってたけど。 それがまさかこんな弊害をもたらすなんてな……。 さっき客の一人に包丁かすめてやったのも、雪那が勘違いする原因だったかもしれない。ナルトは片手で顔を覆って、深く深く溜め息をついた。 「えっ、なにその呆れたみたいな溜め息!」 「呆れてんだよ、バカ」 こういう方面に関しては、絶望的に察しが悪いのは相変わらずだって分かってたはずだ。 雪那に言い寄る男どもに思い知らせてやるつもりだったけど、一番思い知った方がいいのは雪那なんじゃねーか? マジありえねー。 「……おっちゃん、今日はもうセツナ連れて帰るから」 「えっ、ちょ、ナルト……!?」 ナルトは訳が分かっていない様子で慌てる雪那を抱き上げた。 言い捨てるだけ言い捨てておいて、雪那とテウチの返事を聞く前にさっさとその場から逃亡を図る。 あ、つい瞬身使っちまったけどまあいいか。これを機に習得したことにしよう。 姿を消す直前、一楽に群がっていた男どもの大半が異様に殺気立っているのが見えたが、もうそれもどうでもいい。 帰ったら覚えてろよ、雪那。 俺の頭の中にあったのは、いかにしてこの鈍い雪那に分からせてやるかだけだった。 【夢小説トップ】 【長編本編目次】 【サイトトップ】 |