05





「のう参謀、どうしたらゆずは振り向いてくれるかのう」

「あんな酷い振り方をしてまで突き放したのに、か?」

「参謀の言った通り、隣に引っ越したんじゃけど」

「誰も引っ越せとは言っていない。俺はゆずの住む部屋を教えただけだ」

「隣が空き部屋だ、なんて言われたら引っ越せって言ってるようなもんじゃろ」

上手くいかんのう、と呟いて柳のデスクに突っ伏して目を閉じる。
ゆずは今日ハルトの幼稚園行事のため休みをとっているらしい。




頭に浮かんでくるのはゆずとの楽しかった日々なはずなのに。








「ならばあの時、邪魔だ嫌いだなんて言わなければよかっただろう。俺は後悔する確率は100%だと言ったはずだ」

あの時、それはゆずと別れたとき。




高校卒業と同時に始めたモデルの仕事も順調で、映画3本ドラマ2本が決まっていた頃、俺は久しぶりのゆずとのデートを週刊誌に撮られたんじゃ。






「お前はゆずと仕事を天秤にかけて、仕事を取ったというだけだろう」

まだまだガキじゃった俺にはそうするしかなかったんじゃ。
記事には一般人であるゆずのことも詳しく載っていて、生い立ちからか悲劇のヒロインだなんて書いてあった。


ゆずのことが好きじゃった、ちがう、今も好いとう。


じゃけど、こんなことが世間に広まればゆずは絶対に傷つく。
人気が出てきた頃に『どんどん雅治が別の世界のひとになっていくから、釣り合ってないのかなって不安になるよ』と言っていたのを思い出す。



ゆずに向けられる世間の目から守るために、事務所からの条件を飲んだんじゃ。

"別れれば、週刊誌は差し止めてやる"










「子供が居った。3歳の」

「それがどうした」

「いちばん好きな食べ物は、ゆずの作る中にたまごが入ったハンバーグなんだと」

「ほう、」

「付き合ってたときによく作ってくれててな、俺もゆずのハンバーグだいすきじゃった」

「それで、」

「自分で言うのもあれじゃが、小さい頃の俺にそっくりじゃ」

「何が言いたい」

「ハルトの父親は俺なんじゃろ?」

「それはゆずに直接聞いたらどうだ」

「参謀、今日は冷たか」

「ほう。弦一郎と柳生も呼ぶか?」

「すまん、それだけはやめてくんしゃい」

真田と柳生まで加わったら何言われるか。



はぁ、参謀は俺の味方じゃと思っとったんに。








「この間、ゆずにキスしたら泣きそうな顔された」

「当たり前だろう」

「俺はまだ、ゆずのこと好いとう」

「それは俺じゃなくてゆずに言うべき言葉だろう。一度酷く捨てられた相手がいきなり現れてキスなんてされたら誰だって戸惑う。そんなこともわからなくなるくらい恋愛に不器用だなんてな、仁王。詐欺師の名が聞いて呆れる」

「詐欺師は関係なか」

「恋愛は直球勝負だ」

「俺はひねくれもんじゃから直球は苦手じゃ」

「誰だって回りくどい言葉より、ストレートにぶつけられたほうが心に響く」

そう言って、ふっと笑った参謀にまさか恋愛指南なんてされる日が来るなんて、と思うとなんだか笑えてきた。








「仕事の邪魔してすまんかったの。参謀的には俺とゆず、何%じゃ?」

「・・・聞くのか?」

「いや、やっぱりええ」

そこで開眼はないじゃろう、参謀のあほ。
俺だってこわいんじゃ。





そのまま後ろ手に手を振って、参謀のオフィスを出た俺は知らんかった。




(96%、だ)

そう、参謀が呟いたことを。



 
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