04





「まま、すべりだいしてきてもいい?」

『うん、でもあんまり遠くまで行っちゃだめだからねー』


日曜日の公園は親子連れがいっぱい。
芝生の上にシートをひいて、かばんからポットとお弁当を出してピクニック。

近所のお友だちと遊ぶハルトを見ながら本を読むのが最近のお気に入りの時間だ。








「おなかすいたー」

『え、もうそんな時間?』

ぱたぱたと走ってきた息子に顔をあげれば、小さな手に引っ張られる大きな手。





「あっちにまーくんがいたんだよ!いっしょにごはんたべたい!」

にっこりと笑うハルト。
その表情は嬉しくて仕方ないって顔をしている。

ここまで引っ張ってきておいて、ダメだなんて言えないよ。
仕方ない、仕方ないよね。






『うん、いいよ』

わたしの声に、すまんのう、と言う雅治を見ればなんとも言えない表情をしていた。




「ままのごはん、すっごくおいしいんだよ!」

「そうか。食べるのが楽しみじゃのう」

「おべんとうにははいってないけど、ハンバーグがいちばんすきなの!まんなかにとろとろのたまごがはいってるんだよ!すごいでしょ!」

「ほー、それはまーくんも食べてみたいのう」

ハルトと話す雅治はすごくすごく優しい顔をしていて、胸の奥がずきんと痛む。
昔はわたしにもそんな顔をしててくれたのかな。






「あ!きのうね、ぼくまーくん見たよ!てれびのなかにいた!」

「おー、ハルトは見てくれたんか」

「ままもいっしょにみたよね」

『え、あ、うん』

急に話を振られて考え事をしていた思考をこっちに戻す。




「どうやってテレビのなかにはいるの?」

「テレビのなかに行けるどこでもドアがあっての、」

「え、すごい!まーくんドラちゃんとおともだちなの!?」

『・・・ハルトに嘘教えないでよ』

声をかければおもしろそうににやり、と笑う。
モデルを始めたときだって、すぐに手の届かない存在になった。
なのに今、となりに居るなんておかしすぎる。
いちばん居て欲しかったときには居てくれなかったのにね。







ピピピッピピピッ

「すまん電話じゃ」

そのあとひと言ふた言話したら、仕事が入った、と残念がるハルトに困った顔で説明していた。

いつの間にこんな仲良くなったんだろう?








「そうじゃハルト、まーくんがいいって言うまで後ろ向いててくれんかの?」

「いーよ!」

一体、何をする気なの?って思っていたら、




「ゆず、」

耳元で名前を囁かれてぎゅうっと目を瞑れば、一瞬唇が重なった。






「もうこっち向いてよかよハルト。また今度、遊ぼうな」

「うん!ばいばい!」

雅治が重ねた唇は、わたしの頭をさらにぐちゃぐちゃにした。
ふわりと残る彼の香りが、いまはとても苦しい。




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