◎06
夕立きそうだなー、なんて思いながら右手にハルトの小さな手、左手には自分とハルトの荷物を持って歩いていたら、ぽつりぽつり。
『あ、降ってきた』
風邪をひかれては困るので、だいぶ重たくなったハルトをひょいっと抱き上げて全力疾走すること約2分。
『着い、た…っ』
「ままはしるのはやかったねー!」
マンションのエントランスでハルトをおろすと、びしょびしょになりながらジェットコースターみたいだった!とけたけた笑っているハルトにわたしも笑う。
『びしょびしょだからすぐお風呂にしよっか』
「うん!」
『ごはん出来るまでテレビ見てていいよ』
ぽかぽかに温まった小さな身体をめいっぱい広げてフローリングに大の字に寝転がるハルト。
『こらこら、フローリングは冷えるからせめてカーペットかソファにしなさい』
「はぁい」
ぽてぽて歩いてソファにまた寝転がるハルトの様子に微笑みながら夕食つくりを再開。
とん、とん、と包丁の音が響くリビングに違う音が聞こえたのはそれから5分もたたないうちで。
『わ、』
「うぎゃ、」
カーテンを閉めていてもわかるくらい眩しい光に、バリバリバリバリ、という嫌な音。
いつもはマイペースなハルトもこのときばかりは勢いよく起き上がりわたしに飛び付いてきた。
「まま、ばりばりさんこわい…」
『よしよし』
がしっと足にしがみついてくる涙目のハルトの頭をなでてやる。
でも、そんなわたしも小さな頃から雷は怖くて仕方がない。
両親が帰ってこないひとりぼっちの暗い部屋で、ふとんをかぶって雷がやむのを待っていた頃を思い出すからつらい。
雅治と付き合ってた時はよく、怖がるわたしの手を繋いでてくれたっけ。
…って、だめだめ。
あれからわたし、雅治のこと考えすぎだよ。
キスされたのだって、単なる気まぐれかもしれないし、何かの間違い。
「かみなり、おちる?」
『…いや、そんな簡単に落ちはしないと思うけど』
「まっくらになる?」
『停電?かみなりがおちたらするかもしれかいね』
だいたいハルト、寝るときは真っ暗にしなきゃ寝れないくせに真っ暗がこわいなんて。
念のために懐中電灯でも出しておこうかな。
『音が嫌なら耳塞いでればいいんだよ』「やだ」
『どうして?』
「ままのこえきこえないのやだ」
『っ、ハルトかわいいっ!』
ぎゅっと我が子を抱き締めて、頭をぐりぐり撫でる。
せっかく怖いのを忘れていたのに。
一際大きな雷の音と同時にブツンとすべてが落ちて真っ暗になった。
「ままぁ…」
『こわいね、ままもこわいよ…』
ああ早く懐中電灯出しておくんだった。
明るくなれ電気つけって思っていたら。
ピリリリリッピリリリリッ
ポケットに入れておいた携帯が震えた。
とっさのことで相手も確認せずに出れば、
「・・大丈夫か?」
ふわり、優しい声が耳に届いた。
『まさ、はる…』
「昔から雷だめじゃったもんな。今停電しとるじゃろ、明るくなるまで話しててやるき、安心しんしゃい」
「まーくん?」
「ハルトも、まーくん居るからもう大丈夫じゃよ」
それから、雅治と話だがるハルトに電話を変わってすぐ、ぱちんと明かりが戻った。
「ぼく、まもれるよ!やくそく!」
電話越しに何かを約束したのか、小指をひとりで揺らすハルトに思わず笑顔になった。
"ハルトは男の子じゃ、まーくんがおらんときはハルトがままを守るんじゃ"
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