潜む言葉
右よし、左よし、いざ直進…するかばぁか!!
左右を確認して一歩踏み出そうとしたのにどっからかひぃちゃんが湧き出てきた。
あぶない、寸でのところで拉致られるとこだった。
体育館という名の地獄に。
はっはっは、ひぃちゃんもまだまだだね、こんなの簡単に「にげられると思うかしら」
「イイエ、滅相もない……!!」
(ひぃちゃんの笑顔)∝(威圧と恐怖感)と学びました。
+++
「見学なんて邪魔になるに決まってるって!」
「馬鹿ねー。練習中はひっそり覗いて、終わったら入るのよ」
「監督とか、コーチとか」
「カントクに許可でたわ」
「なんで!!?」
ひぃちゃんこわい。
体育と集会ぐらいでしか近寄らない体育館からはキュッキュッと靴の音とかボールの音が聞こえてくる。ん…?あとなにか…「―……ぇ…ら…―…ら調子乗ってんじゃねぇ!!」なにこれこわい。ひぃちゃんレベルでこわい。
引き気味で冷や汗垂らしていたらひぃちゃんが私の首をグリンと回した。折れるわ!
「しっ、黙って見な」
ひぃちゃんに言われたとおり大人しく見ると、自販機事件以来はじめてまともにみた日向くんの姿が見えた。
シュートをする瞬間だった。
自販機事件でもじっくり見ることはなかった彼の姿は、記憶の彼とあまりにも違っていた。
ああ、なんてきれいな動作なんだろう
授業程度しかバスケをしない私の目に、流れるようなシュートは見慣れなかった。ボールがスパッと入る瞬間に思わず(すごっ)ともれた。
「格好いい?」
「とか思ってないから!!」
「またまたー」
いやいや
そんなこと、まだ思っていないよ
あ、伊月くんだ。はぁー、あの人ホントにバスケ部だったんだな。
06.潜む言葉
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潜む言葉 "まだ"
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