02 - よろしく、友だち@



同じクラスじゃし、隣の席じゃし、向かう先はもちろん一緒。一緒に歩きつつふと思ったことを聞いてみた。


「ところで、なんであんな上から落としたんじゃ」

「え?」

「あそこって、美術室か?」


ついさっき思いついた。美術は始まるギリギリに行って終わったら即出て行くもんじゃからわからんかったけど、そういやあそこは美術室付近じゃ。


「美術室っていうか、美術準備室ね」

「ほー、そんな部屋あったんか」

「あるある。私、美術部だから、そこでお弁当食べてるからね。で外の景色眺めてたら…」

「?」

「…えーっと、また別の人の告白現場見ちゃって。誰かは言えないけどね!」


それで興味本位で覗こうとしたら、うっかり手に持っていたキーホルダーを落としちまったらしい。いや〜人の告白とかおもしろがって見るもんじゃないね天罰だねって、一人でごちゃごちゃ言っとるが、俺としてはそんな頻繁にあそこで告白イベントがあるのかと戦慄した。他のテニス部員とブッキングせんでよかったぜよ。


「まぁ、仁王くんとけっこう話せたから、よかったかな」


またゴニョゴニョと、小さな小さなそんな言葉がするりと耳に届いた。まぁ俺も、隣の席のやつとやっと話したわけで、それはよかった気もした。

そういうニュアンスの言葉を口から出そうか、でも一人言っぽいし返事しても…、と少し迷ったが。結局もう教室に近くなったので、無言で終わった。

ただ、俺は少しだけ興味を持った。隣の席の土屋茉優に。
暗いタイプと思いきやわりと話しやすかったり、存在すら頭になかった美術部所属ということ、カエル侍という謎のキャラクターを愛でていること。

柳生に初めて興味を持ったときと同じかもしれん。自分とまったく違う価値観を持っていそうなタイプ、単純に“おもしろそう”な気がして。

今日から隣の席の土屋茉優観察を始めることにした。


「仁王くん、バイバイ」


午後の授業が終わると、土屋は鞄を掴み、そそくさと教室から出て行った。今日はどうやら部活はないらしい。

次の日、朝練後に教室へ向かうと、土屋はまだ来てなかった。そういえばいつも俺より遅かったようなと、何となく思い出した。実際、今日も先生と同時ぐらいに着席しとった。


「おはよー!…危なかった、また遅刻するところだった」


ヘラヘラ笑いながら出た言葉から、なるほど遅刻魔かと、そういうタイプかと思いきや。
その後の授業は真面目に受けるタイプらしく、せっせとノートをとっている。そのうち寝始めるんじゃないかと見守るものの、俺のほうが根負けして寝てしまった。


「寝息聞こえてたよ」


おまけに休み時間にはそんな反撃もされ、次こそはと思ったが。結局土屋はその後の授業も寝ることはなかった。

昼休み、隣で食べるならどんな弁当なのか見られると思ったが、そういえば美術準備室で食うって話だった。その通り休みに入ると、土屋はすぐに教室から出て行った。あとで戻ってきたのも授業が始まるギリギリの時間。よし、今度こっそり美術準備室に覗きに行くかのう。

そして放課後はまた即帰宅。どうやら美術部は週に2回ほどしか活動してないらしかった。部活のない日は何しとるんじゃろうか。
ちなみに授業と授業の合間には、美術部らしくノートに絵を描いていることもあった。この前見たカエル侍とやらが多く、まぁ美術部らしくなく下手だった。

と、そんな具合に俺の土屋観察は毎日続き、一週間が経った頃だった。
昼休みに入り、またすぐ教室から飛び出して行くのを見送ろうかとしたところ。

土屋は俺の横を通り過ぎたところでくるりと振り返った。


「あ、あの、仁王くん。ちょっといいかな?」


弁当を片手に提げた土屋に、廊下へと連れ出された。
ここ一週間、ほとんど同じ行動だった土屋。まさか俺がずっと観察してたことに気づいたんか?


「そのー…自意識過剰だったら申し訳ないんだけど。仁王くん、なんかずっと私のこと見てない、かな?」

「……」

「すごく、視線を感じてて」


予想は的中。何となく“おもしろそう”、俺とは違う生き物っぽいから観察してたなんて言ったら気分悪くするじゃろうし、怒るよな。うーん、なんて言い訳を…。


「あのねあのね、別にいいんだけど!安心してほしいなと思って…」

「…ん?」

「私がこないだの告白のこと、誰かにバラすと思って見張ってるんでしょ?」


何を言っとるのかすぐにはわからず、は?と間抜けな声で聞き返したものの。土屋は俺の異変には気づかず、ペラペラと話し始めた。


「でもね、ほんと安心して!私ね、そんなこと話せる友達いないから!休み時間もずっと一人だったでしょ?美術準備室でご飯食べてるのも一人でだし」

「……」

「なんか自分で言ってて悲しいけど。でもだから、他の人に伝わることなんてないから!」


悲しいと言いつつ笑うが、余計に悲しさが伝わってきた気がした。
そういえば土屋は、3年から立海に入学してきたんじゃった。始業式の日に担任から簡単な紹介があっただけで、その後何もなかったから忘れとったけど。

おまけに俺自身がいつも一人で行動するタイプ。隣の席の土屋がいつも一人であっても、別に違和感はなかった。
そうか、まだ友達がおらんのか。


「……あの、仁王くん?」


クククッと笑ったのが、土屋にもバレたらしい。
友達がおらんことを笑ったわけじゃない。この勘違いっちゅうか、行き違いぶりがおもしろかった。思った通りの、俺は考えんようなユーモアさがあったから。


「や、すまん。見てたは見てたが悪気はないんじゃ。お前さんが誰かにバラすってのも、正直まったく頭に浮かばんかったぜよ」

「え、じゃあなんで…」

「ただ単に見てただけじゃき」


これでさらに混乱したのか、というより俺を不審がってか、何とも言い難い複雑な表情を浮かべた土屋。いや、間違いなく不審がっとる。じゃあ私はこれで〜と小声で呟きつつ、ここから離れようとした。

その制服をほんの少しだけ、引っ張った。


「俺がなるぜよ」

「え?」

「友達。お前さんの友達じゃ」


そう言うと、土屋はぽかんとした表情を見せた。
まぁ異性じゃし、ただ隣の席ってだけじゃけど。おまけに友達ってのはわざわざ宣言するもんじゃなか。
でもなかなか興味深かったから。これからよろしくってことで。


「仁王くんが?友達になってくれるの?」

「ああ」

「な、なんで?」

「隣の席だから」

「あー、そっ…か?」


一瞬納得したような顔をしたものの、まだ意味不明な様子。そりゃそうじゃな、俺自身も意味不明というかただのノリなわけで。

だが少しの間のあと満面の笑みで、じゃあよろしくーと握手を求めてきた土屋。その手を握りつつ、全然暗くもないし普通の女子、むしろそのうち普通の女子の友達ができそうじゃと思った。
他の友達ができるまでになるかもしれんけど、仲良くできればと思った。

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