03 - よろしく、友だちA



『お前さんの友達じゃ』


自分でも何言っとるのか、よくよく考えればおかしな話。でも別に悪いことではないはず。俺にとっても土屋にとっても。


「ほー、美術準備室ってこうなっとるんか」


翌日の昼休みに、さっそく気になっていた美術準備室とやらにお邪魔させてもらった。普段は鍵がかかっとるらしく、部活の生徒でもなければなかなか入れない。

中は普通の教室の5分の1ぐらいの狭さ。その名の通り美術に関するたくさんの道具や教材、作りかけの彫刻なんかもあった。

その中央、やや窓側寄りに椅子が3つほどあり、いつもそこに座ってるんだろうと想像できた。
ただ、椅子は3つじゃけどいつも一人でここにおるんじゃろな。道理で、昼休みはずっと見かけないわけじゃ。


「ご飯食べる?」

「あー、俺は売店に…」


キョロキョロと見渡していた目を向けると、土屋は窓の縁にぴょんと飛び乗って座り、飯を広げようとしていた。ちなみに窓は開いとる。


「後ろ怖くないんか?窓」

「え?大丈夫大丈夫!この手すりが背もたれになるし」


確かに窓には外側から2本パイプが張ってあって、立ち上がって乗り越えん限り落ちんとは思うが。
土屋茉優はどうやらアクティブらしい。というか、わんぱく?


「あ!見て見て仁王くん」


窓の下で何かを発見したらしい土屋に促され、言われた通り隣から下を覗き込んで見てみると、木の陰に男女二人がいるのが見えた。ここからじゃ顔は見えんが、おそらく知らないやつら。

あ、そういやここって。


「たぶん告白だと思うなー」


少し楽しそうに土屋は言った。肘から先を豪快に外に伸ばしつつ、クルクルと指で弁当入れの巾着を回しとる。なるほど、こないだもこんなことをやっとったからキーホルダーを落としたんじゃな。


「なかなかいい性格しとるのう、お前さん」

「い、いや、こっから先は見ないって!」

「おもろそうじゃき、このまま見届けるぜよ」

「えー?…あ」


何となく予感はしていた気もする。
クルクルと回っていた巾着が土屋の指からすっぽ抜け、そのまま落下していった。


「ま、待って!」


無言で即ここから出て行こうとすると、がっちり腕を掴まれた。


「一緒に下まで取りに行こう!」

「や、俺売店行かんと」

「うちら友達でしょ!」

「じゃあ今だけ友達解除で」

「そんな!」


仁王くん仁王くんお願いお願いとうるさいもんじゃから、仕方なしに一緒に下まで行ってやることにした。

現場付近の植え込みの陰に潜んで様子を伺うものの、俺やその前のやつらのときと違い今回はだいぶ込み入ってるらしく、その二人はなかなか場を離れない。


「あーあ、これで売店行く時間なくなるぜよ」

「うっ…、わかったよ。私のお弁当ちょっとおすそ分けするから」

「なに、メニュー」

「んーと、おにぎり3つとおかずはハンバーグ、クリームコロッケ、ゆで卵、プチトマト、ほうれん草のごま和え、だったかな」

「お、けっこう豪華じゃのう。じゃあおにぎり2つとハンバーグとクリームコロッケとゆで卵もらうかの」

「は?それじゃ私トマトしかないじゃん!」

「ほうれん草があるじゃろ」

「やだよ、タンパク質も欲しい!」

「運動部じゃないじゃろ。必要なし」

「うわすごい偏見!」

「…あ」


物陰とはいえごちゃごちゃ言い合っていたら。例の二人が俺らに気づいたらしく遠巻きに覗かれ、バッチリ見つかった。当然だがむちゃくちゃ怪訝そうな顔じゃし、一応会釈したもののなんかむちゃくちゃ睨まれた気がする。そんな気まずい空気になったせいか、ようやく二人は去って行った。

ちなみに土屋は後ろ向きで頑なに振り向かんかったから、睨まれたのは俺だけ。


「…行った?」

「行った。…が」


ふーっと深呼吸する土屋の頭に、ぐりぐりと拳をめり込ませてやった。


「なに自分だけ知らん顔しとったんじゃ、卑怯者」

「いてて…!ごめん!なんか怖くて振り向けなかった!」

「あーあ、これじゃ俺が覗き魔の主犯になっちまったじゃろ。弁当だけじゃ足りん、お詫び」

「ええー!」


ほんと弁当だけじゃ足りん。そもそも土屋がドジ踏んでここに来たわけじゃし、さっきしゃべってたのも土屋のほうが声デカかったじゃろ。俺は一切なーんにも悪くない。


「ごめん!仁王くん!友達やめないで!」


拝むように懇願され、さーてどうしようかのうと言ったものの、もちろんそんな気はない。


「よし、じゃあ許してやるが一個条件な」

「え?なに?どんな?」

「俺もたまにあそこ使う。昼飯とか」


上の、さっきまでいた部屋を指差した。そう、美術準備室。
屋上でのんびりもいいが、普通の部屋でゆっくりとするのもいい。どこか空き教室はないかと思っとったところじゃし。


「いいけど……え、逆にいいの?」

「なにが?」

「なんていうか、私と一緒にいる時間が増えるっていうか…」

「別に、友達じゃき。変じゃないじゃろ?」


そう言い切ると、そっかそっかと半分納得半分やや不思議そうに土屋は頷いた。

友達だから、という理由は間違いではないし、いつも昼休みあの部屋に引きこもっとることに、やや思うところもあった。
加えて、今日の、今の昼休みがなかなか楽しかったから。

巾着回収後、ご飯食べに戻ろうと歩いてる途中に予鈴が鳴り、二人して走りながらおにぎりを頬張った。

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