01 - 探し物は何ですか



暖かい陽だまりの屋上とは正反対の、薄暗くひんやりとした空気のあるここ、校舎裏は、人気がない。


「好きです!付き合ってください!」


人の気がないのが人気なのか、告白スポットだというのは有名な話。今俺が立っとるこの木の下がまさにそうで。

ただ、薄暗いだけで周りには植え込みやちょっとした花壇もある。昼休みの今はほんの少し日差しもある。美化委員が頑張っとるんかな。美化委員……幸村、ちゃんと飯食ったかのう。


「……仁王くん?」

「...あ、すまんぼーっとして。えーと」

「返事、どうかな?」


返事か...よく考えもせずこの場で断ってもいいのか。でも考えさせてって時間もらっても、結局は部活優先で断るじゃろうし、そもそも好きではないのに付き合うのも変じゃろ。だからといって、いや断る、なんてさっぱり言ったら余計傷つけるか?

数秒間だが相模湖より深ーく考え抜いた俺は、言葉を選びつつ。


「…申し訳ないが」

「……」

「今は、部活優先で…」

「……」

「すまんけど、付き合えな…」


だんだんと涙を溜めていく相手の目を見て、あーこれでも言い方まずかったかと焦る。何かフォローするべきか。いや、フった俺がもう何を言ってもダメな気がする。むしろこれ以上何も言わんほうがいい気がする。どう言葉を選んでも失敗する気がする。


「わかった。急にごめんなさい」


目の前の相手はスッと自分の目を拭うと、案外冷静な声色でそう返事をしてきた。そしてあっという間にこの場から離れていった。それを完全に見送ったあと、大きく深呼吸。

はぁー……どっと疲れた。何も間違ったことはしてないはずじゃけど、俺も相手の子も。でもこういう繊細、というかデリケートな心理戦は疲れる。
まぁ俺が大げさに考えとるだけで、案外もう仁王ウザーとか思っとるかもしれんし……、

なんて考えていると。ガサッと背後から音がして、慌てて振り向いた。途端に目が合ったのは、植え込みの中から出てきた……、
同じクラスの女子、土屋だった。しかも隣の席のやつ。


「ご、ごめん!盗み聞きする気はなかったんだけど…!」

「……」

「ちょっとここの、この、ここでね!探し物をしてて!」


動揺からか噛み倒しつつ植え込みをビシッと指差す土屋。確かに探し物をしとったんじゃろう、膝に土がついとる。…って、這い蹲ってまで探しとったんか?一体何を。

そして俺が黙ったままなのを怒ってると勘違いしたのか、土屋はごめんなさいを連呼し始めた。いや、黙ってるのはただ単にびっくりしてるだけで。


「別に、大丈夫じゃき」

「…ほ、ほんと?許してくれる?」


コクっと頷くと、土屋はさもホッとしたような笑顔を見せた。
そういえば土屋とは隣の席じゃけど、ほとんど話したことはなかった。どっちかというとおとなしい、暗いやつだと思っとったけど。案外愛想はいいらしい。

ただまぁ、話すことも特にないので。それじゃあとその場を離れようと足を進めた。
…が、そもそも何を探しとるんか気になった。別に嘘だと疑ってるわけではなく。


「何を探しとるんじゃ」


もう俺は去っていったと思ってたのか、頭上からの声に土屋はびっくりした顔を上げた。ちなみにまた這い蹲っとる。


「あ、えーっと、アクキー…アクリルキーホルダーなんだけど」

「そこら辺に落としたんか?」

「たぶん、位置的には…」

「?」


確証もなくこんな辺鄙なところを探しとるんかと一瞬思ったが。土屋は上を指差した。それを目で辿った先にあるのはどっかの特別教室の窓。だいたい4階ぐらいを指してるか。


「…まさかあそこから落としたんか?」

「うん」


キーホルダーの耐久性とか知らんが、これは無事じゃない気がした。まぁ壊れてるとしても、破片か何かは残っとるじゃろうけど。

それは置いといて。なるほどじゃあ頑張って、と言える雰囲気ではないことに今さら気づいた。ここで見捨ててみろ、数分前に女子を冷たくフってそのあと隣の席の子が困ってるのに冷たくあしらったっちゅうことになってしまう。


「一緒に探すぜよ」

「…え?」


膝汚すのは勘弁じゃき、しゃがんでそれらしいものはないかと目を光らせた。何がそれらしいかはわからんけど。


「仁王くんって」

「ん?」


呼びかけられたんで顔を向けると、土屋はついに正座までしてこっちを見ていた。おまけに文字通り珍しいもんでも見る表情。


「なんか、びっくりした。ごめん、悪い意味じゃないんだけど」

「……」

「今一緒に探してくれたり。さっきもすごい丁寧に断ってたし。意外だなって」


若干失礼なことを言われとる気もするが、さっきのアレが丁寧に見えていたと。元々友達という仲でもない異性視点、つまりむちゃくちゃ客観的に見て、丁寧だったということ。
よかった、さっきの対応は正解だった。フーッと胸を撫で下ろした。その瞬間。


「…あ!!」


土屋は大きな声をあげると、俺を押し退け奥の低木に手を突っ込んだ。
そして引っ込めた手には、キラリと輝く……、変な生き物のキーホルダーがあった。


「あったー!よかったー!」

「それか?探し物」

「そう!カエル侍っていうキャラクターでね、大事にしてて」

「…へぇ、初めて見た生き物じゃな」

「今仁王くんのここら辺がキラッと光ったから見つかったんだよ!仁王くんが銀髪でよかったー!」


そう言って俺の横髪を指差した。俺の髪と反射し合ったんじゃろか。薄暗い校舎裏にわずかに差す薄い日差しが。

とりあえず本人が見つけてくれてよかった。俺だったらそんなよくわからん生き物…カエル侍って言ったか?ちょんまげのついたカエルが侍の格好してる変なキーホルダー、ゴミだと思っちまうところじゃった。


「ありがとね、仁王くん」

「いや」


そう言ったところで昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

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