緋と金

これまでのあらすじ:色々あって白廉がホルメンに行かなきゃいけないけど、イセンとホルメンの間の大海を渡るだけの技術を持った船はうちにはない!さあどうする!

「一つの手段としては、私達の頭上で潜めていない奴の手を借りることですね。」
 そう言って白廉は上を指さした。
「は、潜めていない…?誰かいるのか?!」
「おや、兄上も気付きませんでしたか。この天井裏に猫が隠れていましたよ。」
「…猫……?」
 南も首を傾げる。
「ああ。悔しいが、此奴ならば海を渡るだけの技術を持っている。」
 そう言って白廉は、皇の長執務室の入口の方を見やった。
「そうだよな?ロイル・ハーチェス。」
 煌雅と南も同様にそちらを見るとそこには、怖いほどに美しい洋風の顔立ちをした男が立っていた。白廉以外の誰にも気づかれなかったその男は、今やそうとは思えぬほどに強い存在感を放っている。
 男は、白廉に睨め付けられても平然と薄く笑い、口を開いた。
「ええ、その通りでございます。緋の宮様。」
 白廉にそう言った後、今度はその兄、皇の長、青の宮煌雅に向き直った。
「陛下にとっては、はじめまして。私、第13代目怪盗ハーチェスのロイルと申します。お見知りおきを。正装ではなく私服でのお目通りとなってしまいましたこと、お詫び申し上げます。」
 手を腹部に当て腰を折るこれまた洋風の礼をした後、八重歯を見せニヤリと笑った。
「なぜ私服かと申しますと、此方にお目通りをする気などサラサラなかったものですから、ねぇ。」
 伝承に聞く月のような金の瞳を白廉の方へ動かす。
 金光に見下ろされた白廉は、鉄紺の中に僅かに緋色を煌めかせながら顔を顰めた。
「お前が俺に気づかれるから悪いのだろうが。盗人の癖に忍ぶことも出来んのか。いや、それ以前にうちに忍び込むな。」
「我々は盗人ではなく、怪盗です。それから、私がいることに気づくのは貴方だけですよ。その技術も初代から教わったのでしょうかね。」
「初代…ああ、あのハゲか。」
 敬愛する初代怪盗ハーチェス、レイヤを「ハゲ」などと表現され、ロイルのポーカーフェイスを気取った口元が僅かに引き攣る。
「俺が気配に敏いのはアイツの教えではない。元々だ。」
「なるほど、緋の宮様は生まれつき素晴らしかったのですねぇ。まるで化物のようだ。」
 化物。自分でもよくやる表現だが、他人に言われると腹が立つ。それも皮肉に乗せたものならば尚更だ。元来癇性な白廉は、怒りを抑えようと奥歯を噛んだ。
 苦々しい表情の白廉を見て気を良くし、ロイルは表情を変えずに、正座をする白廉の目の前に緩慢な動作で片膝をついた。
「おや、どうなさりましたか?怒ってらっしゃるように見受けられますが。まさか、自分は化物ではない、とでもおっしゃるのでしょうか?」
 そういいながらロイルは、細い中性的な指で白廉の前髪を払い、その緋色を強めた瞳をより顕にした。
「別に、初代の教えがあっても無くても、おんなじだったんじゃねえの?」
 ロイルの顔は笑ってこそいたが、その先にある表情は読めなかった。
 煽られた白廉は、歳の割には小さな手でなめらかな指を乱暴に振り払った。そしてそのままの勢いで、ダン、と左足を立て詰め寄った。
「うぬ、人を怒らせる天才だな……そんなにあれから教わりたかったのなら、その弟子の俺が稽古をつけてやろうか。」
 そう言いながら、左手を右の袂に入れた。
「なにか、見えるかもしれんぞ?」
 白廉は体内に武器などを入れることができる。右腕は、対人用の短刀がある方だ。
 緋と金が睨み合う。
「…………っだああああんもう!ケンカやめっ!!」
 ついに痺れを切らした南が、二人の間に割って入った。
「なんで二人そんなに仲悪いの!どーせ似た者同士の癖に!」
「なっ!俺と此奴のどこが似ていると言うのだ!」
 心外だ!と怒る白廉に対して、ロイルは声を上げて笑った。
「はははっ。ごめんな、なみ。そうだ、ところで……。」
 ロイルは白廉から離れ、南の前にひざまずきその手を取った。
「こんな唐変木じゃなくて、俺に乗り換える気はねえか?ッと、」
 南を口説くロイルの手首に白廉か手刀をおろした。それに一瞬早くロイルが手を引く。
 白廉は抗議するでもなく、口を真一文字に引いてロイルを睨みつけていた。
 そんな白廉の様子を見て南は、へらっと笑った。
「ごめんねぇロイルくん。確かにロイルくん美人だけど、なみってば一途だからさ。」
 幸せそうに笑う南を見て、ロイルも少しつられたように笑った。


書きたいことは書いて満足したので突然の終わり。

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